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監修した弁護士

弁護士:大橋史典

弁護士法人プロテクトスタンス(第一東京弁護士会所属)
弁護士:大橋 史典

0.不貞行為に対する法的な責任とは

退職を強要された

不倫相手と職場が同じである、「職場不倫」「社内不倫」などの場合、不倫相手の配偶者(妻または夫)に不倫が発覚すると、慰謝料の請求ばかりでなく、会社を退職するよう強く求められることがあります。

場合によっては、会社に対して直接、あなたを解雇するよう要求してくることもあるかもしれません。果たして、これらの要求は可能なのでしょうか。弁護士がわかりやすく解説していきます。

まず、浮気・不倫の不貞行為は不法行為ですので、その責任は果たさなければなりません。しかし、法的な責任は、あくまでも精神的な損害賠償である慰謝料の支払義務にとどまります。

そのため、不倫相手に社会的な制裁を加えたいからといって、強制的に会社を辞めさせたり、退職を強要したりすることはできません。

ましてや、会社や職場の上司などの第三者に対して、不倫の事実を暴露して、解雇を求めることなどできません。

次に、このようなときに起きてしまう、よくあるケースについて解説していきましょう。

1-1.退職するよう強要された場合

前述の通り、不倫相手の妻(または夫)から、退職をするよう求められたとしても、法的にこれを強制することはできません。

「会社を退職する」、「仕事を辞める」というのは、会社と従業員(あなた)との間の雇用契約や出向契約などにもとづいています。

そのため、自ら退職する場合や、会社が解雇するような場合であっても、相手の配偶者が関与できるものではありません。

もし、「仕事を辞めなければ会社にバラす」とか「会社を退職しなければ痛い目に合わせる」などと脅された場合、暴行や脅迫を用いて、義務のないことを行わせていることになります。

そのため、相手に強要罪(法定刑は3年以下の懲役)という犯罪が成立する可能性があります。

ただし、会社にいづらくなったことにより、自主退職や部署異動を考えているような場合は、慰謝料を減額させるための交渉材料にすることもできます。

さらに、同じ職場で働き続けながらも、復縁しないことを誓約するため、「業務上やむを得ない場合を除いて、今後の私的な接触や連絡を一切禁止し、これに違反した場合には違約金〇〇円を支払う」といった接触禁止条項を和解書(合意書)盛り込むことを、相手方に提案して交渉することも可能です。

1-2.脅された場合

感情的になっている不倫相手の配偶者(妻または夫)から、「ぶん殴ってやる!」とか「無事に家に帰れると思うな、覚悟しろよ!」などと害意を告げて脅されることもあります。

しかし、これは脅迫罪(法定刑は2年以下の懲役または30万円以下の罰金)が科される可能性があります。

1-3.会社に不倫の事実を暴露された場合

会社内・職場内で不倫の事実がバラされた場合、不特定または多数が知り得る状況で具体的な事実を告げて、人の社会的評価を低下させたことになります。

これは、名誉棄損であり、民事上は、逆に損害賠償を請求することができますし、刑事上は名誉棄損罪(法定刑は3年以下の懲役もしくは禁錮または50万円以下の罰金)が成立する可能性があります。

仮に、不倫などの具体的な事実を適示せず、「エロ女」「クソ野郎」などと言われた場合には、名誉棄損罪ではなく、侮辱罪(法定刑は拘留また科料)が成立する可能性があります。

1-4.勤務先に嫌がらせをされた場合

職場に何度もしつこく電話を架け続けられたり、取引先に嫌がらせをされたり、社内にビラをばら撒かれたような場合は、その会社の業務を妨害したとして、威力・偽計業務妨害罪(法定刑は3年以下の懲役または50万円以下の罰金)が成立する可能性があります。

1-5.「慰謝料を支払わなければ、会社にバラす」と言われた場合

たとえば「300万円(要求額)の慰謝料を支払わなければ、会社にバラす」などと告げた場合、脅迫を手段として財物を交付させることになりますので、恐喝罪(法定刑は10年以下の懲役)が成立する可能性があります。


以上のように、不倫相手の配偶者から様々な要求をされたとしても、必ずしもその要求を飲む必要がないものもあります。逆に、民事・刑事の両方から責任を問うことができる場合もあります。

2.会社から退職を勧められたり、解雇された場合

自主的に退職を勧められたり解雇された

もしも、社内不倫が会社にバレた場合、会社によっては、自主的に退職するよう勧められたり、突然、解雇されたりすることがあるかもしれません。

しかし、日本の裁判所では、懲戒解雇を含む解雇は、客観的に合理的な理由があり、社会通念上相当でなければ、違法・無効な「不当解雇」であると判断し、従業員(労働者)を保護する立場を取っています。

つまり、会社による退職勧奨や解雇は厳しく制限されているのです(いわゆる、「解雇権濫用法理」)。

そのため、本来はプライベートな事情に過ぎないはずの社内恋愛による不倫を理由として、退職するよう勧めたり、解雇したりすることは、違法な退職勧奨や不当解雇に該当する可能性が高いといえます。

では逆に、社内恋愛による不倫により、解雇されても止むを得ない場合とは、どのようなケースでしょうか。

(1)会社の信用を傷付けたり、業務に支障が生じている場合

社内不倫が他部署や取引先にまで知れ渡った場合、その会社の品位や信用を害する可能性があります。

また、社内で公然と就業時間中に恋愛し、また、痴話喧嘩やトラブルなどを繰り広げることで、他の社員の業務に支障が生じているような場合は、解雇理由になってしまう場合があります。

(2)セクハラ・パワハラが生じている場合

職場での不倫は同僚間だけで起こるものではありません。むしろ、一方が他方の上司にあたるケースの方が多いのではないでしょうか。

この場合、不倫の発覚や別れ話のトラブルから、セクハラ・パワハラ問題に発展することがあり、それが解雇理由になってしまう場合があります。

(3)何度も注意指導されても、それに従わない場合

社内不倫が業務や会社に悪影響を与えている場合、会社(使用者)は従業員(労働者)に対して、その行為を止めるよう注意指導を行います。

これに対して、「プライベートな事情だから」と何度注意されても止めない場合、解雇理由になってしまう場合があります。


上記のような事情に当てはまったとしても、会社はただちに解雇できるわけではありません。就業規則に定められた解雇理由や手続きに則っているのか、果たして、解雇という厳しい処分が相当であるのか、労働審判や訴訟などの手続きを使って、会社側と争うこともできます。

3.まとめ ~不倫の代償を最小限にするには~

浮気・不倫の発覚による慰謝料の請求は、ある日突然にやってくることが多いものです。そのため、冷静な判断ができずに、相手から言われるままに慰謝料を支払ったり、その他の要求を受け入れてしまう方もいます。

また、退職の強要や脅迫などの過大な要求をしてくる相手は感情的になっています。適切な対応をしていかなければ、必要以上の責任を取らされたり、相手の感情を逆撫でし、逆に火に油をそそぐことになり、取り返しの付かない結果にもなりかねません。

浮気・不倫の慰謝料問題に詳しい弁護士であれば、あなたの代理人としてその盾となり、不貞行為の代償を最小限に抑え込むための交渉を行うことができます。

ぜひ、ご相談ください。