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監修した弁護士

弁護士:大橋史典

弁護士法人プロテクトスタンス(第一東京弁護士会所属)
弁護士:大橋 史典

0.内縁状態・事実婚でも不貞行為の慰謝料請求はできるの?

内縁・事実婚について

浮気や不倫は、必ずしも婚姻関係にある夫婦に限った問題ではありません。
お付き合いしている恋人同士において、また、同棲関係や内縁関係にあるパートナーが、別の人と浮気や不倫をしてしまうこともあるかと思います。

このような場合でも、婚姻関係にある夫婦と同じように慰謝料を請求することができるのでしょうか。

結論からいえば、内縁や事実婚の状態にあるパートナー間において、浮気や不倫の不貞行為(肉体関係を持つこと)が行われてしまった場合、その配偶者はパートナーや、浮気・不倫相手に対して慰謝料を請求することができます。

しかし、必ずしも法律上の夫婦間における不貞行為の慰謝料請求のようにはいかないようです。
そこで今回のコラムは、内縁や事実婚における慰謝料問題の難しさについて、弁護士が解説します。

1.そもそも内縁関係とは?

この問題を検討するには、はじめに「内縁」という言葉を整理しておく必要があります。

内縁とは、事実婚ともいい、夫婦同然の暮らしをしていながら、婚姻届を提出していないために、法律上、夫婦として認められない関係のことをいいます。
そのため、単なる愛人関係や同棲しているだけのカップルは、内縁とは認められません。

現在の法制度では、婚姻届を提出すると、名字を夫あるいは妻のどちらかに統一しなければなりません(夫婦同氏の原則)。
そのため、近年、仕事に影響が出るなどの理由で、婚姻届をあえて提出していないカップル、つまり、内縁や事実婚が増加していると言われています。

内縁状態の夫婦は、配偶者が亡くなってしまった場合の相続など、相続人として認められないといった問題点はあります。
しかし、社会保険や生活保護の扶助対象となることや、婚姻費用の分担請求が認められるなど、法律上の夫婦と同様に取り扱われる傾向になりつつあります。

そして、裁判所の判例でも、内縁状態であっても、内縁を不当に破棄された場合は、離婚と同様に慰謝料の請求を求めることができると判断されています。

「内縁は、婚姻の届出を欠くがゆえに、法律上の婚姻ということはできないが、男女が会い協力して夫婦としての生活を営む結合であるという点においては、婚姻関係と異なるものではなく、これを婚姻に準ずる関係というを妨げない」(最高裁判所昭和33年4月11日判決)。

つまり、内縁関係は法律上の夫婦に準ずる関係であると位置付られており、法律上保護されるのです。

法律上の夫婦に準ずる関係というのは、同居義務はもちろん、貞操義務も求められます。そのため、片方が浮気や不倫をしてしまった場合には、その配偶者は、慰謝料を請求することが可能となります。

しかし、実際は、婚姻関係にある場合の慰謝料の相場よりも低い金額しか認められないケースも少なくありません。これはなぜでしょうか。

2.不貞行為の慰謝料請求は相手の故意や過失が必要

不貞行為で慰謝料請求ができる場合とは?

これには、浮気や不倫の慰謝料請求が認められるための要件である「故意・過失」と「内縁関係」に関連性についてみていく必要があります。

まず、浮気や不倫の慰謝料は、下記の判例にもとづくとされています。

「夫婦の一方の配偶者と肉体関係を持った第三者は、故意又は過失がある限り、…(略)他方の配偶者の被った精神上の苦痛を慰謝すべき義務があるというべきである」(最高裁判所昭和54年3月30日判決)。

この最高裁判例により、浮気や不倫による不貞行為は民法第709条の不法行為の性質を持つと判断され、浮気や不倫された側からの慰謝料請求が広く認められるようになりました。

次に、この不法行為が成立するためには、浮気・不倫相手の故意または過失が必要であるという点が大切です。

つまり、たとえ慰謝料を請求されたとしても、浮気・不倫相手からしてみれば、「相手が内縁状態だとは知らなかった、知らなかったことにつき落ち度はなかった」という反論(言い訳)が成り立つ可能性があります。
故意または過失がなければ、不法行為が成立せず、慰謝料を支払う義務が発生しません。

実際に、内縁状態の妻から夫の不倫相手に対する慰謝料の請求を求めた裁判において、下記のようなものがあります。

「内縁関係にあることを知らず、ただ単に交際している女性がいるという認識しかなかった」との不倫相手の主張が認められ、慰謝料請求が認められなかった裁判例(東京地方裁判所 平成15年8月27日判決)

「長年同居していることは知っていたが、単なる同居人であるとの説明を受けていた」との不倫相手の主張が認められ、慰謝料請求が認められなかった裁判例(東京地方裁判所平成24年6月22日判決)

つまり、これらの裁判例からは、戸籍に記載されているなど、明確に結婚の事実が明らかである法律婚と比べ、内縁状態は、浮気や不倫相手の故意または過失があるとは判断されにくいと言えるのです。

3.内縁であることを知っていた場合には慰謝料請求が可能

しかし、上記の裁判例は、あくまで浮気や不倫相手が、内縁状態にあることを知らなかったとき、つまり故意や過失がなかったときです。
様々な状況を総合的に判断して、内縁状態であることを知っていたと認められた場合には、慰謝料の請求が認められます。

たとえば、同居しており、不貞行為が始まるまで内縁関係が約4年も続いた内縁の妻が、夫の浮気・不倫行為により、内縁関係が破綻してしまった事例においては、相手に内縁の妻がいることを認識していただけではなく、浮気・不倫関係の形成に、夫ではなく、不貞相手の方がより積極的に働きかけた事例においては、150万円の慰謝料が認められました(東京地方裁判所平成22年2月25日判決)。

この点、実際に判断が困難になるのは、内縁関係であるのか、単なる同棲関係であるのか、ということでしょう。
この境界線については、当事者が恋人同士ではなく、夫婦であるという認識や、生計・家計を一緒にしている、数年以上の同居をしているなどが挙げられます。

しかし、これらは第三者から簡単に分かるものではありません。
ここに内縁・事実婚状態の慰謝料請求の難しさがあります。
そこで、最後に、実務で使われる内縁と同棲の見分け方について見ていきましょう。

4.慰謝料請求が認められるための重要なカギ~内縁と同棲かの見分け方

どのようなときに認められるのでしょうか。

これまで説明した通り、内縁関係は法律婚と違って、戸籍に明確に記載されるわけではありません。
そのため、同棲状態ではない内縁関係であることの証明の難しさから、慰謝料が大幅に減額されたり、そもそも慰謝料の請求が認められないことすらありえます。

実務では、様々な資料を提出して、内縁関係にあったか否かについて判断していくことになります。
最後にその例について、いくつか見ていきましょう。

  1. 住民票には世帯主との続柄の記載欄があります。内縁関係の場合、「夫(未届)」や「妻(未届)」として届け出ることが可能です。
    当人たちが、「夫」「妻」として届け出をしているのですから、同棲ではなく内縁であることの示す有力な証拠となります。
  2. 社会保障上、内縁状態の夫あるいは妻も、相手の扶養に入ることが可能です。
    夫あるいは妻が、専業主婦(夫)やパートタイムでしか働いていない場合、扶養に入っていることもありますので、健康保険証などが内縁状態である証拠となりえます。
    ※税金関連の場合、内縁状態は、まったく他人と判断されますので、配偶者控除を受けることができず、内縁状態にあることの証明にはなりません。
  3. 貸借契約書の同居人欄や保証人の欄に「(内縁)妻」と書いてあることがあります。
    また、生命保険の受取人となっている場合、単なる同居人を受取人と指定することは考えにくく、内縁状態にあるといえそうです。
  4. そのほか、結婚式を行っていたり、法事などの行事に配偶者として出席していたことなどの生活実態も総合的に考慮され、単なる恋人関係ではなく、内縁関係と認められたケースもあります。

なお、不貞行為に関する証拠は、法律婚の場合と変わりません。性的関係を持ったこと、たとえば一緒にラブホテルに入った写真などです。

したがって、内縁関係にある夫婦と不貞行為を行った相手に対して、慰謝料の請求が認められるためには、内縁関係にあったことをどう証明していくか、が重要なカギになります。

以上のように、内縁関係はその証明の難しさから、法律婚の慰謝料における相場より1~2割程度減額された金額でしか認められないことが多いようです。

弊事務所では、内縁状態の夫(あるいは妻)が浮気・不倫をしてしまったという難しい問題についても、様々な角度から検討を行い、妥当な金額の慰謝料の請求および回収の実現を図ります。

もしも、他の事務所で「内縁状態の慰謝料請求は難しい」と断られてしまったような場合であっても、ぜひ一度、私たちに相談してみてください。