目次
0.そもそも浮気・不倫って何?
ドラマや芸能人のゴシップ報道など、日常的に使用される「浮気」や「不倫」という言葉。弁護士事務所に寄せられる法律相談においても、浮気や不倫に関する相談は少なくありません。
具体的には、浮気・不倫をした配偶者や不倫相手に対する慰謝料請求や、浮気・不倫を原因とする離婚問題などです。
しかし、私たちが日常的に使用している「浮気・不倫」と、法律の世界における(慰謝料が認められるための)「浮気・不倫」は少し意味会いが異なります。実は、「浮気・不倫」といった言葉は法律用語ではありません。法律用語では「不貞行為」といいます。
浮気や不倫は、配偶者や恋人がいるにも関わらず、それ以外の他の異性と親しい間柄になってしまうことを指すことが多いと思います。
これに対して、不貞行為とは、前者に比べ少し狭い意味であり、配偶者がいるにも関わらず、自由な意思にもとづいて、配偶者以外の人と肉体関係(性的関係)を持つことを指します。
配偶者以外の他の異性と親しい間柄、たとえば、手をつないだり、ハグしたり、一緒に食事をしたりする行為は、確かに倫理的には問題があるかもしれませんが、法的には、慰謝料が発生する浮気・不倫には該当しないと判断されることがほとんどです。
そして、不貞行為があったと認められた場合には、「夫婦の平穏生活を害した」とされ、慰謝料の支払義務が発生します。
1.慰謝料が発生する不倫とは
では、次に、実際に浮気・不倫が行われ、慰謝料が発生するための要件について、最新の裁判例なども踏まえ、具体的に見ていきましょう。
ほとんどの裁判例では、不貞行為の事実があったとしても、ただちに慰謝料が請求できるわけではなく、下記の条件を満たしているかどうかで判断されています。
慰謝料発生のための4つのポイント
- 肉体関係があったか
手をつないだ、キスをした、ハグをしただけでは、慰謝料が発生するための不貞行為とは判断されないのが原則です。また、肉体関係は1回だけではなく、複数回・長期間の関係であったかも重要なポイントになります。 - 不倫が始まったとき、夫婦関係は破綻していたか
具体的には、別居していたとか、離婚協議を始めていたといった場合です。 - 不倫相手が既婚者であると知っていたか
不倫相手が結婚していることを全く知らなかった、あるいは知ることも出来なかった場合には慰謝料が発生しないこともあります。
たとえば、不倫相手と知り合ったのが、独身者が出席するお見合いパーティーだった場合には、「既婚者であると知らなかった」と言える典型的な例でしょう。 - 時効が成立していないか
不倫相手を知ったときもしくは不貞行為の存在を知ったときから3年、あるいは不貞行為のときから20年経過すると慰謝料の請求をすることができなくなります。
個別具体的な事情によりますが、浮気や不倫があったとしても、上記4つのポイントをすべて満たしていなかった場合、慰謝料が発生しなかったり、または、慰謝料が減額される要因となります。
2.こういう場合はどうなるの?実はよく見かけるケース
実は、弁護士が浮気・不倫の慰謝料を請求する交渉では、必ずしも上記4つのポイントにあてはまらないケースも少なくありません。具体的にいくつか見ていきましょう。
(1)事実婚や内縁関係にあった場合
最近、夫婦同然の生活をしているものの、婚姻届を出さない「事実婚」や「内縁関係」にある男女のカップルが増えています。このような正式な婚姻関係にないカップルであっても、そのどちらかが不貞行為を行った場合、慰謝料は発生します。
しかし、実際の裁判例では、事実婚や内縁関係と単なる同棲との線引きが難しいことなどから、夫婦間における慰謝料のケースに比べて、認められる慰謝料がやや低い傾向にあります。
(2)肉体関係はあったが、恋愛感情がなかった場合
不倫相手が風俗や水商売を行っており、営業行為(枕営業)として肉体関係があったケースなどです。
枕営業として長期間性的関係にあった顧客の配偶者から、慰謝料を請求された事案において、不倫相手に対する慰謝料請求が認められなかった裁判例があります(東京地裁平成 26 年 4 月 14 日判決)。
しかし、その一方で、最初は枕営業として肉体関係を続けたが、次第に恋愛感情を持つようになったと認められ、慰謝料請求が認められた裁判例もあります(東京地裁平成22年11月26日判決)。
この点、恋愛感情の有無については、個人間の心情の問題であるため、第三者が判断することはなかなか難しく、一概に慰謝料が発生する、発生しないと判断することがはできません。
また、本人の意思に反して、強引に肉体関係を持たされたような場合は、もちろん、慰謝料を支払う義務は発生しません。
ただし、あくまで不倫相手に対して慰謝料を請求できない可能性があるだけであり、配偶者に対しては慰謝料の請求をすることができますし、離婚事由の1つにもなります。
(3)肉体関係が一切なかった場合
配偶者以外の異性と、親しい間柄になったとはいえ、性的な接触や肉体関係が一切なかった場合も十分にあり得ます。どちらかが、病気を抱えている場合もあれば、年齢的な問題、気持ちの問題など色々と原因はあるでしょう。
しかし、このような場合でも慰謝料がまったく発生しないとは言い切れません。確かに、多くの裁判例においては、肉体関係があったかを慰謝料発生の大きな判断材料としています。
とはいえ、何度もラブホテルに一緒に入ったことがあったり、友達以上の親しい間柄が長期間続いていた場合には、仮に肉体関係が一切なかったとしても、夫婦の平穏な生活を害したとして、慰謝料請求が認められたケースも少なくありません。
たとえば、不倫相手との間に、肉体関係はなかったが、手をつないだり食事をするなど親密な関係を続けた結果、夫婦の関係が悪化したとして損害賠償請求が認められたケース(大阪地方裁判所平成26年3月判決)や、肉体関係はなかったものの、不倫相手に離婚をさせて自身との婚姻を約束させ、キスなどを繰り返していた行為において250万円もの慰謝料が認められたケース(東京地方裁判所平成20年12月5日判決)などです。
配偶者が上記のような行為をしてしまった場合、本人からすれば、もはや肉体関係の有無に関わらず、裏切られた配偶者を信じて、これまでの生活をすることは困難でしょう。不倫をした当事者に慰謝料が認められたケースは、こういった被害者の気持ちを代弁した結果といえるのです。
3.実は難しい浮気・不倫の証明とボーダーライン
これまで様々なケースを取り上げながら、慰謝料が発生するためには、浮気・不倫に肉体関係(不貞行為)があることが前提であることを説明してきました。
しかし、慰謝料が発生するか否かのボーダーラインは非常に難しく、法律の専門家である弁護士の間でも意見が分かれたりしています。
たとえば、「肉体関係が1回限りでは慰謝料は発生しないが、2回以上は発生する」といった方程式は存在していません。
また、肉体関係は、密室で行われることが多いため、第三者からすれば、実際に肉体関係があったかどうかは分からない・証明しづらいという問題もあります。
実際に弁護士が不倫の慰謝料請求を交渉する場面においては、過去の事例や、残された証拠から綿密に立証を重ね、慰謝料の有無や金額を交渉していきます。そのため、これまで紹介したケースは、あくまで参考程度にすぎません。
危険なことは、感情に左右されて、自分自身で慰謝料の交渉を行ってしまうことです。
浮気や不倫の数だけ、慰謝料を算定する判断基準は異なります。「慰謝料を請求したい」あるいは「慰謝料請求された」場合には、ご自身で判断するのではなく、弁護士に相談することをおすすめします。