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監修した弁護士

弁護士:大橋史典

弁護士法人プロテクトスタンス(第一東京弁護士会所属)
弁護士:大橋 史典

0.結婚前提に交際していた相手が既婚者だった!!

結婚を前提にお付き合いをしていた相手が実は既婚者だった!!真実を知った時の衝撃と怒りは相当なものでしょう。

そもそも相手が既婚者とわかっていたら、真剣交際に発展しなかったかもしれません。相手の嘘によって心も身体も傷つけられた挙句、泣き寝入りなんて悔しいですよね。

このような状況では「貞操権」の侵害を理由に慰謝料請求が認められることがあります。

このコラムでは貞操権侵害による慰謝料請求について、男女トラブルに詳しい弁護士がわかりやすく解説しておりますので、ぜひ参考にしてください。

1.貞操権侵害とは

まず、貞操権とは、「誰とどのように性的関係を結ぶのか」を自分で自由に選べる権利のことです。

結婚を考えていた交際相手と肉体関係を持った後に、相手が独身だと嘘をついていたとわかった場合、「既婚者と知っていたら、関係を持たなかった」と後悔するでしょう。

このように意思決定の自由を侵害されたことを「貞操権侵害」といい、民法上の不法行為に該当します。貞操権侵害の被害に遭った場合、相手に慰謝料を請求することができます(民法第709条、同710条)。

また、暴行や脅迫などにより無理やり性的な関係を持たされたようなケースでは、貞操権侵害だけでなく、「不同意わいせつ罪」や「不同意性交等罪」といった犯罪が成立する可能性があります。

2.貞操権侵害に該当するケースとNG行為

交際相手への慰謝料請求を考えているなら、自身の置かれている状況が貞操権侵害にあたるのかどうか事前に把握しておくことが大切です。

2-1.貞操権侵害にあたるケース

貞操権侵害を理由に慰謝料を請求できるのは、次の両方に当てはまるようなケースです。

  • 結婚しているのに独身だと交際相手から騙されていた
  • 結婚を前提に交際し、肉体関係を結んでいた

また、離婚するつもりがないのに「もうすぐ離婚する予定だ」「すでに別居している」などと騙されていた場合も、貞操権侵害に該当する可能性があります。

2-2.貞操権侵害にあたらないケース

単に性的関係を持っただけでは、貞操権を侵害されたことにはなりません。また、交際相手側に必ずしも非があるとは言えない場合も同様です。

次のようなケースでは、貞操権を侵害されたことにならず、慰謝料を請求しても認められない可能性が高いです。

  • 結婚の話を一度もされていない
  • 相手が「独身だ」と言っていないのに、自分が勝手に思い込んでいた
  • 不倫だとはじめからわかって交際していた

2-3.既婚者と知った後も交際を続けるのはキケン

交際相手が既婚者と知った後も関係を継続した場合、貞操権の侵害による慰謝料の請求が難しくなります。逆に相手の配偶者から不倫の慰謝料を請求される恐れがあるため注意しましょう。

また、休日に会ってくれない、自宅に入れてくれないなど、交際相手の言動から既婚者ではないかと注意すれば疑うことができた場合も同様です。

3.貞操権侵害の慰謝料請求の相場とは?

貞操権侵害による慰謝料の相場は、数十万円から300万円ほどです。具体的な金額は個別の事情を考慮して決められます。

相手の行為に悪質性が高く、精神的な被害が大きいと判断された場合、300万円以上の高額な慰謝料が認められる可能性もあります。

たとえば、次のようなケースでは相手の行為に悪質性が高いと判断されやすいと考えられます。

  • 交際(騙されていた)期間が長い
  • 騙されていた人が10代の女性など、判断能力が十分ではなかった
  • 女性が妊娠、出産もしくは中絶をしている
  • 女性の年齢が結婚や出産の適齢期である
  • 音信不通になるなど、嘘が発覚した後の対応が不誠実だった

一方、交際期間が短く、肉体関係の回数も少ない場合や、真摯に謝罪するなど対応が不誠実といえないような場合は、高額な慰謝料は認められにくいでしょう。

4.高額な慰謝料の支払いが認められた裁判例

貞操権侵害による慰謝料は事情によって金額が異なります。慰謝料の請求が認められた裁判例を紹介しますので、金額の参考にしてください。

4-1.500万円の慰謝料が認められた事例

男性が既婚者であることを隠し、将来の結婚を約束しながら女性と12年あまり交際した事案です。女性は結婚できることを信じて男性の子どもを出産しましたが、出産を知った男性は音信不通となりました。

女性が男性に対して貞操権侵害を理由に慰謝料を請求し、裁判で500万円が認められました(東京地裁平成19年8月29日判決)。

裁判所は女性側に次のような点があることを踏まえ、相場を上回る高額な慰謝料を認めました。

  • 交際期間が10年以上と長期に及ぶ
  • 20代から30代という貴重な時期を男性のために捧げた
  • 男性の親族に婚約者だと紹介され、実父の法要にも参加した
  • 男性の子どもを2度中絶し、3回目に妊娠した子どもを出産した
  • 音信不通になる、子どもの認知に応じないなど、不誠実な対応を受けた

4-2.200万円の慰謝料が認められた事例

結婚している男性が、結婚相談所を通して出会った女性と強引に肉体関係をもった事案です。交際開始から約3か月後、男性が女性に借金を申し込んだものの断られたため、男性は音信不通になりました。

女性が男性に貞操権侵害を理由に訴訟を起こし、裁判で200万円の慰謝料が認められました(東京地裁平成23年6月23日判決)。

交際期間は3か月ほどと短かったものの、女性側に次のような点があることを考慮し、裁判所は200万円の慰謝料を認めました。

  • 結婚相談所で男性と出会い、真剣に結婚を考えて交際をはじめた
  • これまで肉体関係を持った経験がなかった
  • 結婚する相手以外と肉体関係を持ちたくないと考えていた
  • 男性から半ば強引に肉体関係を結ばされた
  • 借金を断った後に男性が音信不通になるなど、不誠実な対応を受けた

5.慰謝料の請求に向けて確認・準備すること

交際相手に慰謝料を請求する前に、確認・準備しておくべきポイントについて説明します。

5-1.時効が成立していないか確認する

貞操権侵害の慰謝料請求には時効があります。相手が既婚者と知った(騙されていたことがわかった)時から3年です(民法第724条1項)。

3年が過ぎると慰謝料を請求する権利が時効により消滅し、請求できなくなります。また、貞操権侵害を受けた(独身だと騙された)ことを知らないまま20年が過ぎても慰謝料請求権が時効で消滅します(同条2号)。

交際相手に騙されていたと気付いたら、上記期間を過ぎる前に対処しましょう。
時効が迫っている場合、相手方に内容証明郵便を送付して慰謝料の支払いを催告するなどの方法により、時効が6か月延長(時効完成の猶予)されます。その間に訴訟を提起することで時効期間はリセット(中断)されます。

5-2.相手の氏名や住所を把握する

内容証明郵便を送ったり訴訟を起こしたりするには、相手の氏名や住所といった情報を把握しておかなければなりません。しかし、マッチングアプリや出会い系サイト、SNSなどを通じて相手と知り合った場合、氏名や住所、勤務先などの情報が虚偽である場合があります。

自分で正しい情報を把握するのが難しい場合、弁護士に相談することを検討しても良いでしょう。弁護士であれば、「弁護士会照会」などの制度を利用し、電話番号や自動車のナンバーから住所を特定できる可能性があります。

5-3.慰謝料請求に必要な証拠を集める

貞操権が侵害されたことを示す証拠を確保しましょう。証拠がないと慰謝料の請求に応じてもらえない可能性があり、応じたとしても相場よりも大幅に低額な慰謝料しか支払われないことも考えられます。

訴訟を起こして請求する場合も、貞操権侵害の証拠がなければ勝訴判決を得るのは不可能といえるでしょう。

6.慰謝料請求のために必要な証拠とは?

貞操権が侵害されたことを証明するには、次のような事実を示す証拠が必要です。

  • 交際相手から独身だと騙されていた
  • 結婚を前提に交際していた
  • 肉体関係があった

ただし、貞操権侵害の証拠を集めることは簡単ではありません。また、適切に証拠を収集・保存しないと、相手から捏造や偽造を疑われ、反論される危険があります。

証拠の収集に不安がある場合は、弁護士に相談してサポートを受けることがおすすめです。

6-1.交際相手から独身だと騙されていたことを示す証拠

慰謝料請求をしても、相手から「独身とは言っていない」と言い逃れされる可能性があります。そのためにも、未婚・独身であると伝えられたときの証拠を保管しておきましょう。

  • 相手からのLINEやメールのやり取り、音声の録音
  • 独身者限定の婚活アプリでの経緯がわかるスマホやPCの画面
  • 結婚相談所で知り合い、相談所から開示を受けた相手に関する資料
  • 婚活パーティーに参加したときの資料

6-2.結婚を前提に交際していたことを示す証拠

たとえば、次のような証拠があると、結婚前提の交際だったことを証明できるでしょう。

  • 結婚式の下見に行った際のパンフレット
  • 両親や友人へ挨拶をしたときの証言
  • 結婚指輪を購入した際のレシートやクレジットカードの利用明細

6-3.肉体関係があったことを示す証拠

お互いに肉体関係を持ったことがわかるメールやLINE、会話の音声記録などを確保しておきましょう。ほかにも、次のような証拠が有効です。

  • ホテルや旅行に行ったときの領収書やクレジットカードの利用明細
  • 妊娠した場合は、診断書やエコー検査の記録、医療明細書

7.貞操権侵害による慰謝料請求の進め方

貞操権侵害の慰謝料を請求する方法は、相手の対応に合わせた進め方があります。

7-1.相手との話し合い

相手が話し合いに応じてくれそうな状況であれば、集めた証拠をもとに直接、慰謝料を請求しましょう。

交渉により合意できた場合、口約束で終わらせずに正式な書面を作成しておくと、トラブルを回避できるので安心です。そのため、慰謝料の金額や、支払方法、期限などを示談書にまとめましょう。

示談書は、強制執行認諾条項の付いた公正証書の形式で作成することをおすすめします。合意した内容通りに相手が慰謝料を支払わない場合、訴訟を経ることなく相手の預貯金や給料などを差し押さえることができます。

7-2.内容証明郵便を送る

相手と話し合うことができなかったり、交渉が決裂した場合は、内容証明郵便を利用して慰謝料の請求書を送付します。

内容証明郵便とは、送付内容や発送日、相手が受け取った日付けなどが郵便局に記録されるサービスです。そのため、「請求書を受け取っていない」など虚偽の主張を防ぐのに役立ちます。

7-3.訴訟(裁判)を提起

内容証明郵便を送っても、相手からの連絡がない場合や交渉がまとまらない場合は、最終的に訴訟を提起することになります。

訴訟に発展すると、慰謝料の請求金額と根拠となる事実を記載した訴状を、証拠とあわせて裁判所へ提出します。裁判所では双方の書面や証拠にもとづき、過去の裁判例を参考に妥当な慰謝料を決定します。

慰謝料が認められると、相手が支払わない場合に財産を差し押さえられる強制執行の権利を得られます。

ただし、訴訟を起こして勝訴判決を得たり、強制執行の手続きを進めたりするには、専門的な知識が求められます。自分で行うと手間がかかりますし、ストレスにもなるため弁護士に任せることをおすすめします。

8.貞操権侵害による慰謝料請求は弁護士に相談を

慰謝料を請求するためには、交際相手の言動が貞操権に侵害していることをきちんと立証する必要があり、ご自身で対応するにはハードルが高いです。そのため、男女問題に詳しい弁護士に相談し、対応を依頼することをおすすめします。

依頼後は弁護士が代理人となるため、人を騙すような不誠実な相手と直接交渉する必要がありません。さらに、弁護士が請求することでこちらの本気度が伝わり、要望を真摯に受け止めて支払いに応じる可能性が高くなるでしょう。

また、過去の交渉や訴訟の結果などから慰謝料の適切な金額を算出して請求してくれるため、納得できる解決が期待できます。

自分自身で対応しても感情的になってしまい効率的に話し合いを進められず、多大な労力と時間を要することも考えられます。精神的・肉体的に負担になることは弁護士に一任し、人生の再スタートへの準備に専念してみてはいかがですか。

弁護士法人プロテクトスタンスでは、クライアントファーストを掲げ、万全のサポート体制を整えております。男性弁護士・女性弁護士の両方が在籍し、異性に話しにくい内容も安心してご相談いただけます。

辛い問題から早期解放されるためにも、専門家の力を借りることは大切です。ご相談をお待ちしております。