目次
0.夫や妻のDVやモラハラに悩む方へ

夫や妻からのDV(ドメスティックバイオレンス)やモラハラ(モラルハラスメント)に苦しんでいる方は少なくありません。「なぜこんなことをされるのだろう…」「どうして分かってくれないのだろう…」と悩み続ける日々は、心身共に大きな負担となります。
実は、DV・モラハラの原因が、配偶者本人の性格ではなく発達障害に由来していたというケースは少なくありません。
このコラムでは、発達障害とDV・モラハラの関連性や特徴、具体的な対処方法、離婚を検討する場合の対応などについて、弁護士が詳しく解説します。
1.DV・モラハラとは何か
まずは、DVやモラハラがどのような行為を指すのか、解説していきます。
DV(ドメスティックバイオレンス)とは、英語の「domestic violence(家庭内暴力)」の略です。明確な定義はありませんが、夫婦や恋人、同居するパートナーなど親密な関係にある人からの暴力のことを指します。
暴力と聞くと、物理的な行為をイメージしがちですが、そればかりではありません。
- 身体的DV
殴る、蹴る、物を投げつけるなどの暴力行為 - 精神的DV
暴言を吐く、無視する、脅迫する、侮辱的な態度や言動を取る - 性的DV
性交渉を強要する、避妊を拒否する、嫌がる性的な行為をさせる - 経済的DV
生活費を渡さない、収入や財産を管理して自由を奪う、働くことを禁止する - 社会的DV
交友関係や外出を制限する、家族や友人と連絡を取らせないようにする
このうち、精神的DVについては、モラハラ(モラルハラスメント)とも呼ばれます。精神的DVとモラハラとはほぼ同じ意味ですが、DVは配偶者や恋人など親密な関係の人からの行為を指すのに対して、モラハラは職場内などの親密ではない人からの行為も含まれます。
2.発達障害とDV・モラハラの関係性
DVやモラハラを行う理由として、本人のもともとの性格や家庭環境による影響など、さまざまな要因がありますが、「発達障害」が原因となっているケースも少なくありません。「発達障害」とは、脳機能の発達に関連する障害の総称であり、生まれつきの器質的な特性であると考えらえています。
発達障害による症状の一つとして、感情の制御や他者とのコミュニケーションなど社会生活や対人関係に関する困難な状態があります。もちろん全員ではありませんが、この症状が原因で、DVやモラハラと似た行動を無自覚にとる場合があります。
発達障害には複数の種類がありますが、その中でも特にDV・モラハラに繋がりやすいとされているのがASD(自閉症スペクトラム障害)とADHD(注意欠陥・多動性障害)です。なお、ASDとADHDは、併発しやすいともいわれています。
2-1.ASD(自閉スペクトラム障害)
ASD(自閉スペクトラム症:Autism Spectrum Disorder)は、行動や興味に強いこだわりを持ち、状況に応じた柔軟な対応が苦手といった特性が見られます。また、視覚や聴覚、触覚などの五感において、刺激に敏感すぎる(感覚過敏)、あるいは逆に鈍すぎる(感覚鈍麻)という特徴がみられることもあります。
以前は、「高機能自閉症」や「アスペルガー症候群」などと分類されていましたが、現在ではこれらを統合し、「ASD(自閉スペクトラム症)」という診断名にまとめられています。
ASD(自閉スペクトラム症)の特性を持つ方は、相手の気持ちや状況を読み取ることが難しいことがあり、言葉の裏が読めなかったり、冗談が通じにくかったりなどコミュニケーションにおいて、共感性が乏しい印象を与えてしまうことがあります。
また、自分自身の興味やルールに強くこだわりを持つため、それを相手にも当たり前のように求めてしまい、結果として、相手に対しての過度な押し付けや支配になってしまうこともあります。
2-2.ADHD(注意欠陥・多動性障害)
ADHD(注意欠陥・多動性障害)は、意識を集中させることが難しい(不注意)、じっとしていられない(多動性)、思いついたことをすぐ行動に移してしまう(衝動性)といった特性が見られます。
どの特性が強く現れるかは、人によって異なります。それぞれが単独で現れることもありますし、または、組み合わさって現れたりする場合もあります。特に「衝動性」が強い方は、衝動的な言動が多く、感情の制御が苦手です。
そのため、些細なことで激しく怒ったり、無意識に攻撃的な言葉を口にしてしまうことがあり、精神的・身体的な暴力(DV)やモラルハラスメントと受け取られる行動につながってしまう場合があります。
ADHDの三大特性とその具体例
- 不注意
- 気が散りやすく、集中力が長続きしない
- 忘れ物や落とし物が多い
- ケアレスミスを繰り返す
- 話を聞いていても上の空になる
- 物事の段取りが苦手
「だらしない」「いい加減」と誤解されやすいですが、本人の意思や努力ではコントロールが難しい症状です。
- 多動性
- 常に体が動いている(手足をそわそわ動かす、貧乏ゆすりなど)
- 静かな場面でも動き回る
- おしゃべりが止まらない
- 落ち着いた姿勢を維持できない
大人では行動の多動よりも、思考の多動として表れることが多いです。
- 衝動性
- 思ったことをすぐ口にする(空気が読めない)
- 話の途中で口を挟んだり、列に割り込むなど順番を待てない
- 衝動買いやギャンブルなど、計画性のない行動をとる
- 感情のコントロールが難しい(怒りっぽい、爆発的な反応)
対人トラブルの原因になりやすく、特に夫婦関係や職場での摩擦につながることがあります。
3.発達障害によるDV・モラハラへの具体的対処法
DV・モラハラの原因が発達障害である場合は、障害の特性にもとづいた専門的な治療を行うことが必要です。
薬物療法を受けたり、医師のアドバイスに従って生活にルールやルーティンを設けたりすることで、発達障害の症状が改善され、DV・モラハラの行動も抑えられる可能性があります。
まずは発達障害かどうかを把握するため、精神科や心療内科を受診し、検査を受けましょう。そして、発達障害の診断を受けたら、症状の特性を夫婦で正しく理解したうえで、治療を受けることが重要です。
病院へ行くことを提案する際は、相手を非難したり、検査を押し付けたりせず、安心させてあげるのがよいでしょう。たとえば、次のような伝え方を参考にしてみてください。
- 「あなたに問題があるから私は苦しい」
- 「病院へ行ってきて」
- 「2人で仲良く過ごせるように、一緒に専門家の話を聞きに行こう」
- 「あなたもきっと辛かったと思うから、アドバイスをもらって環境を整えよう」
4.DV・モラハラが改善されない場合
病院でしっかり治療やカウンセリングを受けることで、DV・モラハラが改善していく可能性があります。しかし、そもそも配偶者が病院へ行くことを拒否したり、発達障害が判明しても治療に向き合ってくれないこともあるでしょう。
「DVやモラハラは障害が原因だから、悪気はないはず」と我慢し続けるうちに、精神的・身体的に深刻な被害を受ける「カサンドラ症候群」に陥ってしまう方も多くいます。
カサンドラ症候群とは、配偶者などの近しい人が発達障害である場合、意思疎通の困難により精神的に消耗した結果、心身の不調を生じてしまい、強い孤独感や不安感、抑うつ症状、不眠、頭痛などの症状が現れる状態のことです。
医学的に正式な診断名ではありませんが、本人の苦しみが配偶者や周囲の人には理解されず、孤立した状態に置かれることが大きな原因であること考えられています。
特に、DVやモラハラに悩まされている状況では、より深刻な不調に繋がってしまうかもしれません。相手の発達障害を理解しつつも、自分の心身の健康を守ることは、決してわがままなことではありません。
そのため、配偶者が治療に向き合ってくれず、状況が改善していかない場合、ご自身やお子さまへの影響を考えて、離婚を検討することも大切です。
5.発達障害によるDV・モラハラで離婚できる?

離婚は、夫婦間の話し合いによって合意が得られれば成立します(協議離婚)。もし相手が離婚に応じない場合でも、法律上の「法定離婚原因」があれば、裁判によって離婚が認められます。
しかし、配偶者に発達障害の特性があったとしても、それだけでは、法定離婚原因に直接は該当しません。一方で、DV・モラハラは法定離婚原因である「婚姻を継続し難い重大な事由」に該当するため、配偶者が離婚に同意していなくても、裁判によって離婚が認められる場合があります。
ASDやADHDなどの発達障害がDVやモラハラの背景にあったとしても、あくまでも、責任の対象は相手への行為にあります。「悪気はなかった」とか「発達障害だから仕方なかった」という主張は、離婚においてDVを正当化する理由や、モラハラを免責する理由にするのは難しいでしょう。
たとえ、発達障害の特性があったとしても、相手に対する不適切な言動や暴力的な行為が継続的で重大であれば、裁判所が慰謝料や離婚の請求を認める可能性は十分にあります。
6.弁護士に相談するメリット
配偶者が発達障害を抱えており、感情のコントロールが難しく、冷静な話し合いができないケースでは、直接交渉すること自体が大きなストレスになります。一人で抱え込まずに、弁護士に相談するのがよいでしょう。
弁護士に依頼することで、次のようなメリットがあります。
6-1.証拠の収集に関するアドバイスが得られる
DVやモラハラを法定離婚原因として、裁判所に離婚を認めてもらうためには、被害を受けたことを裏付ける客観的な証拠が必要です。たとえば、暴言の録音や動画、LINEでのやりとり、写真や周囲の証言、診断書などが挙げられます。
証拠の内容によって裁判所の判断が大きく左右されるため、より多くの証拠を集められるよう早めに準備することが重要です。もし、自身で証拠を集めるのが難しい場合は、弁護士に相談することをおすすめします。
弁護士は何が有効な証拠となるかを判断し、適切な証拠の収集と整理をアドバイスすることができます。「いつ、何を、どんな状況で録音・録画すべきか」など戦略的な視点から証拠の収集方法をお伝えできますし、逆に、使用することでリスクとなってしまうような証拠を見極めることもできます。
特に、夫婦に子どもがいる場合、離婚に際してどちらが親権者になるのか、親権をめぐって争いになることがあります。家庭裁判所は、日常的な監護養育の実績だけでなく、精神的な安定性や子どもへの配慮姿勢、今後の養育環境の見通しなども重視します。
家庭内でDVやモラハラがある場合、たとえば、怒鳴り声や過度な支配を日常的に目にすることで、子どもは不安定な情緒な恐怖心を抱くようになったり、発育に支障を来たすおそれもあります。DVやモラハラが子どもにどのような影響を与えているのかを客観的に示す資料が、親権を獲得するうえで重要な証拠となります。
6-2.示談交渉をスムーズに進められる
一人で立ち向かうのは不安かもしれませんが、弁護士に依頼すれば、相手方との交渉はすべて弁護士が対応します。
自身で相手方と直接やり取りする必要がなくなり、精神的な負担を減らすことができます。弁護士は法律の知識にもとづいて強い姿勢で交渉するため、相手方が離婚に合意する可能性も高まります。
また、DVやモラハラの被害に対する慰謝料を請求したい場合の交渉も、弁護士に任せることができるので、スムーズかつ有利に話を進められます。
6-3.調停や裁判になった場合の対応を任せられる
離婚や慰謝料獲得に向けた交渉がまとまらない場合は、家庭裁判所での「調停」という制度を利用し、第三者である調停委員を交えて話し合いを続けることが可能です。調停による話し合いもまとまらなければ、裁判を起こし、離婚するかどうかの判断を裁判所に委ねることができます。
ただし、調停や裁判では、証拠となる資料を集めたり、裁判所と何度もやり取りしたりするなど、手間や負担が大きくなります。特に、DV・モラハラの被害者が相手と対峙しながら証拠を集め、手続きを進めるのは簡単ではありませんが、適切に対応できなければ、不利な結果になってしまうことも考えられます。
弁護士に依頼すれば、必要な証拠の整理や手続きにおいて、正確なサポートを受けられます。調停や裁判でも依頼者の代理人として、少しでも有利な結果を得られるよう強い姿勢で主張してくれるでしょう。
6-4.身の安全を確保できる
DV・モラハラの程度が酷く、身の危険を感じるほどであれば、安全な生活環境の確保のために「配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護等に関する法律(DV防止法)」にもとづいて保護命令を申し立てることができます。
保護命令には、以下の種類があります。
- 接近禁止命令
被害者へのつきまといや住居・勤務先付近の徘徊を1年間禁止する。 - 退去命令
被害者と共に生活する住居からの退去と、その住居付近の徘徊を2か月間(特定の場合は6か月間)禁止する。 - 電話等禁止命令
被害者への面会要求、無言電話、深夜の連続したSNS送信などを禁止する。 - 子への接近禁止命令
被害者と同居する未成年の子へのつきまといや学校付近の徘徊を禁止する。 - 子への電話等禁止命令
同居する未成年の子への連続した連絡や深夜のSNS送信などを禁止する。 - 親族等への接近禁止命令
被害者の親族や密接な関係を有する者へのつきまといや住居・勤務先付近の徘徊を禁止する。
申し立ての際は、申立書に発令してほしい保護命令の内容や暴力の状況などを書いて管轄の地方裁判所に提出します。
▶ 申し立ての方法(裁判所のサイト)
保護命令の申し立てには、配偶者暴力相談支援センターや警察署へ事前に相談しておくことが必要ですし、申立書の書き方は複雑です(同法第12条など)。そのため、ご自分で申し立てるのが難しい場合は、弁護士に依頼するのがよいでしょう。
7.弁護士法人プロテクトスタンスへご相談を
離婚の請求や慰謝料請求、親権の獲得なら私たちにお任せください。頼れる味方として強い姿勢で交渉し、あなたの安全と権利を守ります。
「離婚の際にどれくらいの条件になるか知りたい」そんな方も、ぜひ一度ご相談ください。
DV・モラハラの問題に数多く対応してきた経験豊富な弁護士が、お一人おひとりの状況に寄り添い、よりよい解決策を一緒に考えていきます。