目次
- 0.連れ去りは深刻な問題です
- 1.違法と判断されやすいケース
- 1-1.監護実績がない親が連れ去った
- 1-2.親権者ではない親が連れ去った
- 1-3.待ち伏せするなど強引に連れ去った
- 1-4.嫌がる子どもを連れ去った
- 2.違法と判断されにくいケース
- 3.連れ去られてしまったら、どうすればよいか
- 3-1.所在を特定する
- 3-2.勝手に取り戻そうとしない
- 3-3.人身保護請求をする
- 3-4.審判及び保全処分を申し立てる
- 4.外国人の配偶者に子どもを連れ去られたら、どうすればよいか
- 5.弁護士に依頼するメリット
- 5-1.精神的な負担が軽減します
- 5-2.裁判所での手続きを任せられます
- 6.早い段階で弁護士に相談することが大事です
0.連れ去りは深刻な問題です

離婚に向けた話し合い中に、配偶者が自分の同意なく子どもを連れて別居してしまうケースがあります。また、離婚後に元配偶者が子どもを連れ去ってしまうこともあります。
連れ去りは、自分にとっても、子どもにとっても大きな心の傷となり、子どもの環境を大きく変えてしまうため、とても深刻な問題です。
このコラムでは、連れ去りが違法と判断されやすいケースとされにくいケース、連れ去られた時の対処方法などを弁護士が詳しく解説します。
1.違法と判断されやすいケース
たとえ実子であっても、強引な連れ去りは違法と判断される可能性があります。
たとえば、配偶者(元配偶者)や子どもの同意を得ずに子どもを連れ去ると、未成年者略取・誘拐等罪に問われる可能性があります。刑罰は、3か月以上7年以下の懲役です(刑法第224条)。
また、子どもを連れ去られた側は、連れ去った側に対して民事上の慰謝料を請求することも可能です。親権争いにおいても、子どもを連れ去る行為は親権者として相応しくないと裁判所から判断され、連れ去られた側が有利になる可能性があります。
違法と判断される具体的な状況としては、次のようなケースがあります。
1-1.監護実績がない親が連れ去った
日常的に子どもの世話をしてきた実績を監護実績と呼びます。
監護実績が少ない親による子どもの連れ去りは、違法と判断されやすいです。他方、監護実績のある親による連れ去りであっても、違法と判断されないとは限らず、親権を争う際に不利となる可能性があります。
1-2.親権者ではない親が連れ去った
離婚後、親権者にならなかった親が、面会交流中などに親権者に無断で子どもを連れ去ったり、家に押しかけて連れ去ったりした場合、違法と判断されやすくなります。
1-3.待ち伏せするなど強引に連れ去った
子どもの学校や保育園に迎えに行ったり、通学路で待ち伏せしたりして、強引に連れ去った場合、違法と判断されやすくなります。
実際に、別居中の妻が養育している2歳の子どもを、保育園からの帰宅中に父親が連れ去った行為が、未成年者略取・誘拐等罪にあたるとした判例があります(最高裁判所平成17年12月6日決定)。
事案は、子どもの父親である被告が、祖母に連れられて保育園から帰宅している最中の子どもを強引に自動車に乗せて連れ去ったというものです。
父親である被告人は、子どもの両脇に手を入れて抱きかかえ、エンジンを始動させたままの車まで全力疾走し、祖母が窓ガラスを叩いて制止するのを意に介することなく発進して連れ去りました。
父親の行為について最高裁判所は、「監護養育上、連れ去りが必要とされるような特段の事情が認められず、行為が粗暴で強引なもの」として、違法と判断しました。
1-4.嫌がる子どもを連れ去った
監護実績や親権の有無などにかかわらず、子どもが拒否しているのに無理やり連れ去った場合、悪質な行為として違法と判断されやすくなります。
2.違法と判断されにくいケース
子どもに対する虐待から守る目的で連れ去った場合、正当な理由があるとして、違法と判断されない可能性が高くなります。
違法とならないことを逆手に取り、配偶者が虐待をでっち上げて子どもを連れ去ってしまう可能性もゼロではありません。万が一、虐待の冤罪をかけられてしまった際は、すぐに弁護士へ相談してください。
相手が嘘をついたり、証拠を捏造したりしている際には、きっと矛盾点があるはずです。弁護士と共に相手の主張や証拠を精査するなどして矛盾を発見し、冤罪を証明することで子どもを取り返しましょう。
3.連れ去られてしまったら、どうすればよいか

子どもが配偶者に連れ去られてしまったときは、落ち着いて次のように対処してください。
3-1.所在を特定する
まずは、配偶者(元配偶者)に連絡を取ってみましょう。相手の精神状態が不安定で、自殺のおそれや、子どもに危害が加えられるおそれがある場合は、警察に通報してください。
配偶者(元配偶者)に連絡がつかない場合は、その両親や友人、勤務先などに連絡を取ってみるのがよいでしょう。相手方の所在が不明で、離婚前である場合には、相手方の本籍地の市区町村役場で、戸籍の附票を取得することを検討してください。
戸籍の附票では、戸籍に記載されている人が過去に登録した住民票上の住所を確認することができます。相手方も、別居後に住民票を届け出なければ、公的な書類を受け取ることができないなど、不便を感じる可能性が高いため、通常は住民票を届け出ていると考えられます。
戸籍の附票は、配偶者などであれば取得できるのが原則ですが、閲覧制限をかけられている場合や、離婚により他人となった後は取得することができません。
このようなケースでは、弁護士へのご相談をおすすめします。弁護士であれば、弁護士会照会や職務上請求などの制度を利用することで、電話番号やメールアドレス、自動車のナンバーといった情報から、住所を特定できる可能性があります。
3-2.勝手に取り戻そうとしない
相手方の所在が判明した場合でも、感情的になってお子さまを無断で連れ戻すことは避けてください。逆に、ご自身が子どもを連れ去ったと判断され、刑事責任を問われたり、親権争いにおいて不利になる可能性があります。
何より、お子さまの心身を傷つけ、悪影響を与えるおそれがあります。感情的にならず、弁護士に相談するなど冷静な対応を心がけ、解決に向けて行動してください。
3-3.人身保護請求をする
違法な手段で子どもを連れ去り、身体の自由を不当に拘束しているような場合は、警察への相談と並行して、速やかに家庭裁判所に人身保護請求を行うことが重要です。これは、不当に拘束されている人の解放を求める法的手続きであり、連れ去られた子どもを取り戻すための手段となります。
請求から一週間以内を目途に連れ去った側への審問が行われ、連れ去りが違法と判断された場合は、請求者へ子どもを引き渡すように命じる判決が出されます。相手が応じない場合は強制執行することができます。
ただし、人身保護請求は弁護士が代理人となって行うことが原則ですので、弁護士に依頼することが必要です。
3-4.審判及び保全処分を申し立てる
家庭裁判所に以下の家事審判および保全処分を申し立てることにより、法的に子どもの引き渡しを求めることができます。
- 子の引渡し審判
- 子の引渡し審判前の保全処分
- 子の監護者の指定審判
- 子の監護者の指定審判前の保全処分
これらの手続きは相互に補完し合う関係にあるため、引き渡しを求めるに際しては、全ての手続きを申し立てることが望ましいです。
子の引渡し審判
子どもを監護している親から子どもを引き渡してもらうことを求める手続です。ただし、審判が確定するまでに時間がかかる可能性があります。
子の引渡し審判前の保全処分
子どもの引渡し審判が確定するまでの間に子どもを守るため、一時的に子どもを引き渡してもらうことを求める手続きです。
審判の確定には時間を要する可能性があるため、その間に子どもの状況が悪化することも想定されます。そのため、この保全処分を申し立てることにより、速やかな引き渡しを実現し、子どもの保護に繋がる可能性が高まります。
子の監護者の指定審判
子どもの監護者を指定することを求める手続きです。監護者は子どもの居所を指定できるため、実際に一緒に暮らすことができます(民法第821条)。
監護者が自分に指定されることで、引渡し審判などの手続きの正当性が補強されるため、引き渡しが認められやすくなります。
子の監護者の指定審判前の保全処分
審判の確定前に、一時的に子どもの監護者を指定することを求める手続きです。審判の確定前であっても、監護者としての地位を暫定的に確保することができます。
裁判所は子どもの利益を最優先に考慮し、子どもの現在の生活環境や監護状況などを総合的に判断します。
4.外国人の配偶者に子どもを連れ去られたら、どうすればよいか
外国人の配偶者(元配偶者)が母国へ連れ去るなど、子どもが海外へ連れ去られた場合の対応について解説します。
まずは、連れ去られた先の国がハーグ条約の締結国かどうかについて、外務省のホームページにある「ハーグ条約(国際的な子の奪取の民事上の側面に関する条約)の実施状況」から確認してください。
ハーグ条約とは、国境を越えた子どもの連れ去りを防止し、連れ去られた子どもを元の居住国へ迅速に返還するための国際協力の仕組みなどについて定めた条約です。ハーグ条約は1980年に採択され、日本は2014年に締結しました。世界の103か国が締結しています。(2025年5月現在)
子どもがハーグ条約の加盟国に連れ去られた場合、外務省がハーグ条約にもとづき、子どもの返還を支援してくれるので、すぐに連絡してください。詳しくは外務省HPの「日本から連れ去られた子の返還を希望する方へ」を参照するか、「外務省領事局ハーグ条約室」に問い合わせてください。
ハーグ条約室の連絡先は以下の通りです。
電話番号:03-5501-8466
E-mail:hagueconventionjapan@mofa.go.jp
ハーグ条約に加盟していない国に子どもが連れ去られた場合は、条約にもとづいて返還請求することができません。連れ去られた国の法令にもとづき、子どもが不法に連れ去られたことを主張し、返還を求める手続きを行う必要があります。
外務省に相談して支援を求めるか、国際的な離婚問題などに詳しい弁護士に相談してもよいでしょう。
5.弁護士に依頼するメリット
自分で相手方と交渉したり、裁判所での手続きを進めたりするのはハードルが高いため、まずは弁護士に相談し、解決に向けた対応を依頼することが望ましいでしょう。
ここでは、弁護士に依頼するメリットを2つご紹介します。
5-1.精神的な負担が軽減します
子どもについて争うことは、精神的な負担がとても大きいものです。特に、自分に無断で子どもを連れ去った相手と話をするのは、多大なストレスを伴うことが想定されます。
弁護士に交渉などを依頼することで、相手方と直接話し合う必要がなくなるため、精神的な負担が軽減されます。
5-2.裁判所での手続きを任せられます
交渉による解決が困難な場合、調停や訴訟などの法的な手続きによる解決を目指します。ただし、証拠の収集や裁判所への法的な主張の構成など、専門知識が必要不可欠であり、適切に対応できなければ不利な結果となってしまいます。
弁護士は、調停や訴訟などの手続きに精通しており、依頼者のために有利な証拠を揃え、適切に主張立証活動を行うことができるため、安心して手続きを任せることができます。
6.早い段階で弁護士に相談することが大事です
何よりも大事なお子さまを連れ去られてしまっては、感情的になってしまっても当然です。
だからこそ、法律の専門家である弁護士に早めに相談することで、適切な対応方法を知り、問題の早期解決を図ることができます。
一人で抱え込んで苦しまずに、まずは弁護士に相談してみることが重要です。経験豊富な弊事務所までご相談いただければ、お気持ちに寄り添いながら、一刻も早くお子さまと会えるように尽力いたします。