この記事を
監修した弁護士

弁護士:大橋史典

弁護士法人プロテクトスタンス(第一東京弁護士会所属)
弁護士:大橋 史典

0.慰謝料の支払いを約束した人が自己破産したら支払ってもらえる?

慰謝料の支払いを約束した人が自己破産したら支払ってもらえる?

借金などの債務を返済できなくなった場合、裁判所に自己破産を申し立て、「免責許可」を受けることで、債務の返済が免除されるのが原則です。

それでは、浮気・不倫に対する慰謝料を支払うと約束した人が自己破産した場合、慰謝料を支払ってもらうことはできるのでしょうか。
詳しく解説していきます。

1.自己破産したら慰謝料が支払われない可能性が高い

自己破産をして免責許可が下りた場合、税金の支払いなどを除き、借金などの債務の返済は基本的に免除されます。
そして、免除される対象には、慰謝料の支払いも含まれます。

そのため、浮気・不倫の慰謝料を支払うと約束していた人が自己破産すると、慰謝料が支払われなくなる可能性があるのです。

2.自己破産しても慰謝料の支払いが免責されないケースとは

免責されないケースとは

慰謝料を支払うと約束した人が自己破産した場合でも、慰謝料の支払義務が必ず免責されるわけではありません。
次に、慰謝料の支払いが免責されないケースを説明します。

2-1.不倫の目的が害を与えるためだった

法律では、「破産者が悪意で加えた不法行為に基づく損害賠償請求権」に該当する場合、自己破産しても債務は免責されないと規定しています(破産法第253条1項2号)。

つまり、浮気・不倫の不貞行為について、裁判所が「悪意で加えた不法行為」と判断すれば、免責の対象とならないため、慰謝料は支払われます。

ただし、「単に不貞行為を行った」というだけでは、「悪意で加えた不法行為」と判断されない可能性が高いです。

最近の裁判例では、「悪意」について、「故意を超えた積極的な害意をいうもの」と裁判所が判断しています(東京地裁平成28年3月11日判決)。

そのため、「配偶者以外の人を好きになり、その人と肉体関係を持った」という一般的な不倫のケースでは、「悪意」があったと判断されず、免責が認められるため、慰謝料が支払われない可能性が高いと考えられます。

もし、「配偶者を傷つけたかった」「夫婦生活を破綻させたかった」など、積極的に害を与える目的で不貞行為を行ったのであれば、不倫に「悪意」があるため免責の対象外になると判断され、慰謝料の支払いが認められる可能性があります。

2-2.債権者名簿に慰謝料の請求者が記載されていなかった

自己破産を申し立てる際、お金を返済する相手(債権者)の名前と、それぞれの金額を記載した「債権者名簿」を裁判所に提出する必要があります。
そして、名簿に故意に記載されていない債権者に対する債務については、免責の対象外となります(破産法第253条1項6号)。

もし、債権者名簿に慰謝料の請求者である自分の名前が記載されていなければ、慰謝料を請求し、支払ってもらえる可能性があります。
ただし、慰謝料の請求相手(債務者)が破産手続開始決定を受けたことを債権者(あなた)が知っていた場合は、免責の対象となります(同条1項6号括弧書)。

2-3.慰謝料以外のお金は支払われる可能性がある

自己破産した場合でも、婚姻費用を分担する義務や子どもを扶養する義務に関するお金は、免責の対象になりません(同条1項4号)。
そのため、慰謝料以外に婚姻費用や養育費も相手に請求していれば、支払われる可能性があります。

3.自己破産により免責が認められた場合の対応

自己破産をされてしまったとしても、慰謝料の支払いについて記載された「債務名義」を使うことで、慰謝料を回収できる可能性が残っています。

それは、裁判所に相手の給料や預貯金などの財産への差し押さえを申し立て、強制執行することで、慰謝料を強制的に支払わせるという方法です。

債務名義には様々な種類がありますが、離婚条件に関する話し合いや調停、和解、裁判を行う際に作成する「執行認諾文言付公正証書」「調停調書」「和解調書」「判決書」などが債務名義となります。

ただし、相手が自己破産をしている場合、裁判所に対して「請求異議」を申し立てられてしまう可能性が非常に高いです。
請求異議とは、差し押さえ手続きの中で、債務者が強制執行に不服がある際に争うための手続きです。

請求異議が出された場合、裁判所は差し押さえを認めるかどうか、つまり、慰謝料の請求権が非免責債権に該当するかどうかを判断することになります。
この点、免責債権であると判断されれば、慰謝料について強制執行することはできませんし、もしも、非免責債権であると判断されれば、強制執行することができます。

なお、債務名義がない場合は、慰謝料の請求訴訟を提起することもできますが、相手は免責債権であることを主張して、もう支払い義務がないことを主張してくるでしょう。
そして、訴訟手続きの中で、慰謝料が非免責債権に該当するのか、裁判所の判断を仰ぐことになります。

4.慰謝料を請求した相手の自己破産は弁護士に相談を

弁護士に相談

このように、慰謝料を請求した相手が自己破産した場合、慰謝料を支払ってもらうことは極めて難しくなります。
もちろん、相手が自己破産をしたとしても、慰謝料を支払うことそれ自体は自由ですから、破産後に直接交渉することもできます。しかし、現実的な慰謝料の回収は困難です。

慰謝料の請求には、法的な手続きや専門知識が求められ、相手や裁判所を納得させるための証拠や主張が必要となります。

借金を抱えているなど、自己破産するリスクがある人に対して慰謝料請求したい場合や、すでに自己破産されてしまった場合は、弁護士に相談することをおすすめします。

弊事務所は、不倫・浮気の慰謝料請求や離婚問題に強いことに加えて、借金問題にも詳しい弁護士が数多く在籍しています。

東京だけではなく、札幌、名古屋、大阪など、全国各地に事務所がございますので、ぜひお近くの事務所までお気軽にご相談ください。