目次
0.慰謝料の金額に納得できない時はどうすればよい?
配偶者に不倫された場合、精神的な苦痛による損害を受けたとして、配偶者やその不倫相手に慰謝料を請求することができます。
ただ、請求した相手から提示された慰謝料の金額が低いと、「不倫されて傷ついたのに、これだけしか慰謝料を受け取れないの?」とさらに心が傷つくかもしれません。
慰謝料の金額に納得できない場合、事情によっては増額できる可能性があります。
このコラムでは、どのような事情があれば慰謝料が増額できるのか、解説していきます。
1.そもそも慰謝料が認められないケースがある
まず、不倫されたからといって、必ず慰謝料を支払ってもらえるわけではありません。
配偶者や不倫相手に慰謝料請求を拒否され、裁判で争っても、請求が退けられてしまうケースがあるのです。
まずは、慰謝料請求しても認められないケースを確認しておきましょう。
1-1.性的関係がなかった
配偶者と不倫相手の間に性的関係があった(不貞行為をした)場合でないと、慰謝料を請求しても認められないのが原則です。
配偶者以外と2人で食事に行った、ハグやキスをした場合も「不倫した」と考える人がいるかもしれません。
しかし、法律上、慰謝料が認められるのは、原則として不貞行為があった場合です。
ただし、性的関係がなかった場合でも、配偶者と不倫相手が親密な関係を持ち続けたことで、夫婦の平穏な生活が害されたとして、慰謝料が認められた裁判例も複数あります(東京地方裁判所平成20年12月5日判決など)。
1-2.婚姻関係がすでに破綻していた
不倫されたときに、配偶者と長期間別居していたなど、婚姻関係がすでに破綻していた場合、慰謝料を請求しても認められない可能性があります。
慰謝料の請求は、不倫によって婚姻関係が壊されたことに対して行うものであり、すでに婚姻関係が破綻していれば、権利の侵害が発生していないと考えられるからです。
1-3.不倫の証拠を集められなかった
配偶者が不倫している疑いが強くても、ラブホテルを出入りしている写真や、不貞行為をしたことが明確にわかるLINEやメールなど、不倫していたことを示す証拠を集められない場合は、慰謝料請求しても認められない可能性があります。
1-4.時効が成立している
慰謝料には請求できる期間に制限(時効)があります。
具体的には「配偶者が不貞行為の事実を知ってから3年」または、「不貞行為が行われてから20年」です。この期間を過ぎてしまうと、慰謝料を請求しても時効の成立(完成)を理由に認められない可能性があります。
1-5.不倫したことに故意・過失がなかった
配偶者が独身だと嘘をついて不倫をしていた場合、不倫相手は配偶者が既婚だと知らなかったため、故意に(わざと)不倫をしたことにはなりません。このようなケースでは、不倫相手に対して慰謝料請求しても認められない可能性があります(配偶者への請求は認められます)。
ただし、左手の薬指に指輪をしているのを見た、休日に会ってくれない、家族や友人に会わせてくれないなど、注意すれば「自分は不倫しているのではないか」と疑うべきだったケースもあります。
このような場合は、不倫に故意はなかったとしても、過失(不注意)があったとして、不倫相手に対する慰謝料請求が認められる可能性があります。
2.慰謝料を増額できる可能性があるケースとは?
慰謝料が認められるケースであった場合、交渉により慰謝料を増額できたり、裁判で増額が認められたりする可能性があります。
次に、慰謝料の増額が認められる主な事情について説明します。
2-1.相場より低額の慰謝料を提示された
提示された慰謝料の金額が相場を大幅に下回っている場合、増額を求めるべきです。
慰謝料の金額は不貞行為の期間や回数、別居や離婚といった不倫による家庭への影響など、様々な事情を考慮して算出されます。
過去の裁判で認められた慰謝料の相場は、数十万円から300万円ほどです。
このような相場を踏まえ、増額を求めるべきか判断してもよいでしょう。
2-2.婚姻期間が長い
婚姻期間が長いほど、不倫されたことによる精神的苦痛も大きくなると考えられるため、慰謝料の増額が認められる可能性があります。
2-3.不貞行為の期間が長い、回数が多い
婚姻期間が長いのと同様の理由により、不貞行為に及んだ期間が長かったり、回数が多かったりするケースでも、慰謝料の増額が認められる可能性があります。
2-4.夫婦に子どもがいる、不倫により妊娠した
夫婦に子どもがいると、不倫により婚姻関係が破綻した場合の影響が大きくなるため、裁判で高額な慰謝料が認められる可能性があります。
また、配偶者と不倫相手の間に子どもができた場合も、精神的苦痛がより大きいものとして、増額が認められる可能性があります。
2-5.反省の姿勢がない・約束を破った
不倫の決定的な証拠があるのに、配偶者や不倫相手が「不倫していない」と否定する場合や、開き直って謝罪しないような場合は、慰謝料を増額できる可能性があります。
また、「もう不倫相手と会わない」と約束したのに、約束を破った場合も、増額できる可能性があります。
2-6.収入・資産が多い
不倫相手の社会的地位が高く、収入や資産が多いなど、経済力があれば慰謝料を増額できる可能性があります。
ただし、不倫相手の収入や資産が多いからといって、不倫された精神的苦痛が大きくなるわけではないとして、増額が認められないケースもあります。
3.配偶者と離婚しない場合は減額になるかも
不倫した配偶者とは離婚せずに婚姻関係を続ける場合、慰謝料が減額される可能性があることに注意しましょう。
配偶者と離婚しないのであれば、配偶者に慰謝料請求しても、同じ世帯(家計)間でお金が動くだけなので、請求するメリットがありません。そのため、不倫相手にだけ請求することになります。
ただし、不倫相手が慰謝料を支払った場合、不倫相手は、支払った慰謝料の基本的には半額分を支払うよう配偶者に求める権利(求償権)があります。
不倫相手に対しては、求償権の放棄を求めることがきますが、放棄と引き換えに減額を求められる可能性があるのです。
また、不倫相手も既婚者(ダブル不倫)だった場合、請求自体が無意味になることも考えられます。
ダブル不倫は、不倫相手の配偶者も不倫の被害者です。ダブル不倫で不倫相手も離婚しない場合、不倫相手の配偶者と自分がそれぞれ慰謝料請求しても、金銭的に相殺されてしまうため、請求する意味がなくなってしまう可能性があります。
4.請求・増額できるかは専門知識が必要、弁護士にご相談を
配偶者や不倫相手に慰謝料を請求しても、支払いを拒否されたり、減額を求められたりする可能性があります。
不倫の的確な証拠を集めるなど、慰謝料請求が認められる状況を整え、相手との交渉を通じて、慰謝料が高額になる合理的な理由を主張していかなければなりません。
また、交渉がまとまらなければ、訴訟を起こし、裁判を通じて慰謝料の支払いや増額を求めることになります。
しかし、不倫の有力な証拠や、妥当な請求額などは、個別具体的な状況によって異なり、その判断には専門的な知識と経験が求められます。
自分の力だけで、より高額な慰謝料を勝ち取るための交渉をしたり、訴訟を起こしたりするのは簡単ではありません。
また、訴訟に発展すれば、より高額な慰謝料を裁判所に認めてもらうために、どのような証拠をどのように使って主張・立証するかという、極めて難しい作業が必要です。
さらに、請求相手が弁護士を通じて支払い拒否や減額を求めてくれば、独力で立ち向かうのは非常に困難です。
少しでも高額な慰謝料を受け取りたい場合は、できるだけ早く弁護士に相談することをおすすめします。