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監修した弁護士

弁護士:大橋 史典

弁護士法人プロテクトスタンス(第一東京弁護士会所属)
弁護士:大橋 史典

0.父親が親権を勝ち取れるケースもあります

日本では、離婚時に子どもの親権を決める際、母親が親権者になることが非常に多い傾向にあります。司法統計によると、2023年に離婚調停や審判によって母親が親権者となった件数が1万5,128件であるのに対し、父親は1,290件にとどまります。

このデータを見ると、「父親では親権を獲得するのは難しいのだろうか…」と考えてしまう方もいらっしゃるでしょう。しかし、父親が親権を取得することも十分に可能です。

本コラムでは、父親が親権を取得するための具体的な方法や留意点について、弁護士が詳しく解説します。

1.親権取得の基本原則

親権とは、子どもの養育を行う親の権利と義務のことです。現行法では、離婚時に未成年の子どもがいる場合、夫婦のどちらかを親権者に指定する必要があり、親権者を決めなければ離婚は成立しません(単独親権の原則)。

夫婦間の話し合いで決まらない場合は、調停や審判など、裁判所での手続きを通じて親権者を決めます。そして、裁判所は子どもの利益(子どもの福祉)を最優先に考慮して親権者を判断します。

たとえば、次のようなポイントが特に考慮されます。

  • 子どもの年齢と意思
  • 育児の実績(監護実績)
  • 親の心身の健康状況
  • 親の経済状況
  • 子どもの養育環境
  • 今後の監護の見通し
  • 監護補助者の有無
  • 子どもの意思(10歳以上)

母親が親権を勝ち取りやすいのは、これらのポイントのうち「子どもの年齢」や「監護実績」において、母親が有利な場合が多いためです。以下に詳しく見ていきましょう。

1-1.子どもの年齢と意思

子どもが3歳くらいまでの幼児の場合、母親の虐待や育児放棄などがない限りは、親権の獲得は母親がかなり有利となってしまいます。これは、特に幼児期の子どもにとって、母親から愛情を受けることがとても重要と考えられているためです(母性優勢の原則)。

また、4~9歳でも母親が有利となる傾向がありますが、10歳以上になると自我がしっかりしてくるため、裁判所は、どちらの親と暮らしたいかという子どもの意思を重視するようになります。

1-2.監護実績

裁判所は、子どもを世話してきた実績(監護実績)も重視しています。実績がある親に子どもを任せた方が、今後も安定して子育てができ、子どもの幸せに繋がると考えているのです(継続性の原則)。

日本では、父親がフルタイムで働き、母親が主に育児を担当する家庭が多いため、母親に監護実績が認められて、親権争いでも有利になる傾向にあります。

2.父親が親権を取得するための主なポイント

上記に説明した通り、裁判所は母親を親権者に選ぶ傾向にあります。しかし、単に母親だから有利になるのではなく、「子どもを今まで世話してきたから」という理由があるからです。

また、乳幼児の子どもだと母性優勢の原則が適用されますが、近年では母親が無条件に有利になるわけではありません。母性的な立場、つまり、積極的に育児などの監護をしていたほうに親権を認めようとする傾向があるようです。

そのため、父親でも、子どもを世話して愛情を注いできたことを示し、親権者として相応しいことを証明できれば、親権を取れる可能性があります。

それでは、親権者としてふさわしいと示すための主なポイントを説明していきます。

2-1.監護実績を積む

裁判所は、どちらの親が子どもを育ててきたかを大きな判断材料とします。そのため、日頃から次のような世話を行なって監護実績を積み、証拠として残すために、世話の様子を写真など記録しておきましょう。

  • 日常生活
    食事の用意、入浴補助、寝かしつけなど
  • 教育・保育
    学校や保育園の送り迎え、連絡帳の記入、宿題の手伝い、行事への参加など
  • 健康
    体調の管理や病院への同行など

できれば1年以上はこれらの世話を行い、しっかりと監護実績を積みましょう。

別居後も世話ができる環境を整えるために、自分の両親に手伝ってもらうのもよいでしょう。子どもの世話を補助してくれる人(監護補助者)を用意できることは、親権の獲得において有利となります。

ただし、監護補助者に任せきりにして子どもの世話をしないことは、親権獲得においてかなり不利になります。可能な限り自分がしっかりメインで世話をしてください。

逆に相手方が監護実績を積むと、親権を獲得できない可能性が高くなります。別居時に子どもを相手方へ渡すことなく、一緒に住むようにしましょう。

2-2.子どもの連れ去りに注意

気を付けてほしいのが「子どもの連れ去り」です。

監護実績を積むために、母親が子どもを連れ去って別居してしまうかもしれないので、注意してください。これに対しては、出社から在宅勤務に切り替えて子どものそばにいたり、自分の両親に同居を頼んだりすることも必要な場合があります。

また、弁護士に依頼して、子どもの連れ去りを予防するための法的な措置(警告書の送付や裁判所への監護者指定の申立てなど)を検討するとよいでしょう。

逆に、監護実績が欲しいからといって、子どもを無理に連れ去ることはしないでください。虐待から緊急避難させるような場合を除き、たとえ実子でも強引に連れ去ると「未成年者略取・誘拐等罪」にあたる可能性があります(刑法第224条)。刑罰は、3か月以上7年以下の懲役です。

もし罪に問われないとしても、母親から民事上の慰謝料を請求される可能性は高いですし、なにより子どもにとっては、一方的に連れ去られることは心の傷となってしまいます。

2-3.子どもが安心して暮らせる環境を整える

親権獲得において、監護実績だけでなく、「どちらの親といるほうが幸せなのか」がとても重要です。単に世話をするだけでなく、子どもが父親を信頼し安心して過ごせる関係を築きましょう。

たとえば、心理面では子どもの話にしっかりと耳を傾け、感情に寄り添って行動してあげてください。環境面では、子どもの友人関係を尊重し、転校しなくてよい環境を維持したりしてください。

子どもを第一優先に考えて世話をしていれば、子どもがあなたと暮らしたいと思う確率も上がります。

子どもの年齢が15歳以上の場合、裁判所はどちらの親と暮らしたいかといった点を子どもから聴取し、その意見が重視されます。15歳に達していなくても10歳程度であれば意見が考慮される傾向にあるため、子どもが父親と暮らしたいと思ってくれることは、親権獲得においてかなり有利になります。

2-4.母親の虐待や育児放棄があれば記録を取る

母親が子どもに虐待をした場合、父親が親権を取れる可能性が十分にあります。虐待には、次のような種類があります。

  • 身体的虐待(殴る、蹴る、叩く、髪の毛を引っ張るなど)
  • 精神的虐待(暴言、怒鳴る、脅すなど)
  • 性的虐待(子どもを性対象としてわいせつな行為をするなど)
  • ネグレクト(食事を用意しない、放置するなど)

どのような暴言があったのか録音したり、子どもが受けた身体的な傷の写真を撮ったり、診断書を保存しておいたりして、きちんと証拠を残しましょう。もし、虐待の程度が酷い場合は、すぐに警察に通報してください。

ほかにも、裁判所に保護命令の申立てをすることで、接近禁止命令等(つきまとい、接近を制限する命令)を発してもらうという選択肢もあります。

子どもの身体的・精神的な傷は、放っておくと取り返しがつかなくなります。決して軽視せずに、必要な選択を取ってください。

2-5.配偶者の不倫は必ずしも有利にならない

子どもへの虐待がなくても、配偶者の不倫を理由に離婚する場合は、「こんな人に子どもを任せられるわけがない」という感情になるかもしれません。しかし、不倫は夫婦間の問題であって、親権とは無関係なので、不倫されたからといって親権獲得が有利になるわけではありません。

ただし、次のような事情がある場合、不倫が子どもに悪影響を及ぼしているとして、かなり有利になります。

  • 母親が不倫をしたことで子どもに嫌われている
  • 母親が不倫に夢中になって子どもの世話を疎かにしている
  • 母親が不倫相手とのデートに子どもを連れて行った
  • 母親の不倫相手が子どもを虐待した

不倫によって子どもが精神的に不安定になった際は、精神科の通院記録を残したり、母親が子どもを放置して不倫相手と会っていれば、放置の時間が長いことを示す記録を取っておいたりしましょう。

3.親権者になる流れ

親権者は夫婦間での話し合い(協議)や調停や裁判といった裁判所での手続きによって決めていきます。それぞれの手続きについてご説明します。

3-1.協議

未成年の子どもがいる夫婦が離婚する際は、夫婦のどちらか一方を親権者に指定する必要があります。

まずは夫婦間で話し合い(協議)を行い、親権者を決定します。子どもが複数人いる場合、それぞれについて決める必要があります。話し合いで合意できれば、親権者を記載した離婚届を提出して手続きが完了します。

3-2.調停

話し合いが決裂した場合、家庭裁判所に離婚調停を申し立てることができます。

調停とは、裁判官や調停委員が公平な第三者の立場から協議に加わり、離婚するかどうかや離婚の条件などについて話し合いを進める手続きです。調停室などでの対面を避ける配慮もしてくれるため、当事者同士が顔を合わせずに話し合うことができます。

調停が成立すると、調停調書が作成され、離婚届と共に役所に提出します。調停を申し立てる際は、自分自身か相手方の住所地を管轄する家庭裁判所に、申立書や事情説明書、戸籍謄本などの書類を提出します。申立書には、当事者の氏名や住所といった基本的な情報や、離婚の原因、親権を求める理由などを記載します。

3-3.審判

調停が不成立になると、裁判所の判断によって離婚審判が行われる場合があります。

たとえば、離婚することや離婚条件の大半に合意していても、条件の一部に争いがあるようなケースです。審判では、争いが残っている点について裁判官が双方から主張を聞き、離婚を成立させるかどうか判断します。

ただし、結果に対して異議申し立てがあると審判が無効となり、結局は裁判で争うことになるため、審判は頻繁に利用される手続きではありません。

離婚条件の一部で争っている場合のほか、子どもの利益のために緊急で問題を解決する必要がある、相手方が調停に出席しないなど、特殊なケースでしか利用されない制度です。

3-4.裁判

調停が不成立となった場合、または、審判の結果に不服がある場合は、離婚裁判へ進みます。裁判では、自分と相手方が主張と証拠の提出を行い、裁判官が親権者を決定します。

裁判を起こすには、原告(裁判を起こす人)、または、被告(裁判の相手方)の住所地を管轄する家庭裁判所に訴状を提出します。

訴状には、原告と被告の氏名や住所といった基本的な情報や、離婚の原因、親権を求める理由などを記載します。訴状のほか、戸籍謄本や財産分与の証拠となる資料なども添付します。

裁判を起こしてから判決が出るまで、半年から2年程度の期間を要することが一般的です。解決までに長期間かかるため、裁判を起こすかどうかは慎重な判断が求められます。

4.調停や裁判での態度に気を配りましょう

以上で説明したように、話し合いで親権が決まらない場合は、調停や裁判で親権を争うことになります。そのため、丁寧に主張することはもちろん、調停委員や裁判官からの印象に気を配ることも大切です。

印象を良くするために押さえておきたいポイントをご紹介します。

4-1.証拠を集めて論理的に説明する

調停委員や裁判官は、客観的な立場から判断します。調停の申立書や訴状を書くときは「しっかりと育てました」「ちゃんと愛情をかけました」など曖昧な表現は避けてください。

監護実績や養育環境を示す写真や記録などの具体的な証拠や、論理的な主張によって、自分が親権者にふさわしいことを示しましょう。

4-2.激しく罵らない

母親が不倫や虐待をしていた場合、感情が溢れてしまうかもしれませんが、相手を激しく罵ってしまうと、親権獲得が不利になってしまいます。感情的になって暴言を吐く態度が、親権者としてふさわしくないと判断される可能性があるからです。

申立書や訴状を書くときや家庭裁判所で主張するときには、冷静な態度を心がけましょう。

4-3.面会交流を積極的に認める

母親から虐待があったケースや、子どもが拒否しているような場合を除き、離婚後も母親と子どもの面会交流を積極的に認める姿勢を見せてください。

離婚後の面会交流は、子どもが両親のどちらからも愛されているという実感を持つことができる大事な機会です。面会交流に対する消極的な姿勢は、子どもの幸せを考えていないとして、親権者にふさわしくないと判断されてしまいます。

面会交流を積極的に認め、自分の感情よりも、子どもの幸せを第一に考える誠実な父親であることを示してください。

5.弁護士に依頼するメリット

配偶者(元配偶者)と交渉したり、裁判所での手続きを進めたりするのはハードルが高く、また無駄に労力や時間を費やすことになるかもしれません。まずは弁護士に相談し、解決に向けた対応を依頼することが望ましいでしょう。

ここでは、弁護士に依頼するメリットを2つご紹介します。

5-1.精神的な負担が軽減します

離婚や親権について話し合うことは、精神的に大きな負担がかかります。弁護士に交渉などを依頼することで、配偶者と直接話し合う必要がなくなるため、精神的な負担が軽減され、日常生活や子どもとの時間に集中できます。

そして、あなたと暮らすことが子どもにとって有益である理由を、弁護士が法的な視点から説明するので、自分で交渉するよりも納得できる解決を目指せるでしょう。

5-2.裁判所での手続きを任せられます

交渉が決裂した場合、調停や裁判などを通じて解決を目指します。ただし、証拠を揃えて裁判官に主張する必要があるなど、法的な専門知識が求められるため、適切に対応できなければ不利な結果となってしまいます。

親権争いでは、子どもの養育環境が整っており、自分が母親よりも親権者としてふさわしいということを証明しなければなりません。弁護士は調停や裁判の手続きも熟知しているため、有効な証拠を揃え、適切な主張が可能なので、安心して挑むことができるでしょう。

6.親権を諦める前に弁護士法人プロテクトスタンスへご相談を

確かに、日本では母親が親権を取ることが多いです、しかし、何よりも大切なお子さまのことですから、諦める必要は一切ありません。

お子さまへの深い愛情と責任感があるからこそ、親権を諦められないのだと思いますし、監護実績や育児環境をきちんと示せば、その想いは調停や裁判でもきっと伝わるでしょう。

一人で抱え込んで苦しまずに、まずは弁護士に相談してみることが重要です。経験豊富な弊事務所までご相談いただければ、お気持ちに寄り添いながら、親権を獲得できるように尽力いたします。