目次
0.慰謝料の相場って何?
浮気や不倫による不貞行為が発覚した際に、それに対する慰謝料はいくらぐらいが妥当なのでしょうか。
一般的には、裁判に至った場合は数十万から300万円前後で解決されていることが多いようです。この数値は決して誤りではなく、妥当な金額です。
その一方で、芸能人が不倫をした際の慰謝料は数千万円以上と報道されることもあります。しかし、芸能人の場合は、慰謝料だけではなく、離婚の際の財産分与も含まれている場合もありますし、芸能人にとって命であるイメージダウンに対する慰謝料も含まれているため、あまり参考にはなりません。
ただし、実際に、
- 婚姻期間が30年継続していた夫が、夫婦で購入した海外の別荘に不倫相手と同棲したことなどにより、婚姻関係が破綻したとして慰謝料1,000万円の支払いが認められたケース(東京地裁平成17年5月30日判決)
- 婚姻期間が25年ある夫が、不倫関係を10年間継続した不倫相手と海外で1年間同棲生活をした挙句、帰国後には妻の生活圏内で不倫相手と同棲を継続した事案で、妻に対し、夫が1,000万円、不倫相手が300万円、それぞれ慰謝料の支払いを命じられたケース(東京地裁平成14年7月19日判決)
- 婚姻期間が8年ある夫が、二人の女性と不倫関係になり、それ以外にも妻に対する暴力行為などもあり、婚姻期間が完全に破綻したとして、1,000万円の慰謝料の支払いが命じられたケース(横浜地裁昭和55年8月1日判決)
といった、高額な慰謝料が認められた裁判例もあります。
浮気や不倫における慰謝料の金額は、不倫の程度や婚姻期間、夫婦関係に与えた影響(別居や離婚)、相手の経済状況など、様々な要因を考慮して算出されます。
そして、浮気や不倫における慰謝料とは、配偶者が浮気や不倫を行ったことによる精神的な苦痛を金銭化したものになります。
何か、車など物が壊れたわけではなく、「精神的」という目に見えない部分のことですので、一概に慰謝料は何万円とは判断できない難しさがあります。また、算数のように方程式があるわけでもありません。
しかし、何より、当事者にとって「慰謝料の妥当な金額はいくらなのか」といった問題は一番の関心事です。おおよその金額が分からなければ、交渉の場において正しい判断したり譲歩したりすることができません。
そこで、今までに蓄積された何万とある裁判例と、個々の事例を比較し、「裁判例で慰謝料200万円との判断があるから、それと似たような今回のケースもそれくらいだろう」といった妥当な慰謝料の金額を導き出す際の目安となるのが、慰謝料の相場ということになります。
1.慰謝料の相場を導き出すための5つのポイント
では、どのようにして慰謝料の相場が算出されるのでしょうか。浮気・不倫の問題すべてにおいて存在し、かつ、相場の算出において欠かすことのできないポイントについて見ていきましょう。
(1)不貞行為の期間、内容
最も重要なポイントです。不倫をしていた期間が長ければ長いほど、認められる慰謝料の金額は高くなる傾向にあります。1回きりの関係より、数か月、数年にも及んだ不倫関係の方が、本人が受けたショックは大きいからです。
不倫をしていた期間がどれ程度であれば「短い」と判断され、慰謝料減額の要素となるかは、婚姻期間と不倫期間を比較しながら検討していくことになります。
ただ、ほとんどの裁判例は、不倫期間が1~3か月程度であれば短いと判断され減額の要素となり、1年以上であれば長いと判断され増額の要素としているようです。
また、不倫の内容についても重要な判断材料となります。肉体関係の有無もそうですが、それ以外にも、不倫相手との間に子どもがいる、あるいは中絶したことがあると、慰謝料の金額は高くなります。
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(2)婚姻期間
不倫をされた当人とその配偶者の婚姻期間も重要なポイントの一つです。婚姻期間が長ければ長いほど、もう少し詳しく言うと、結婚してから不倫が発覚するまでの平穏な婚姻期間が長ければ長いほど、慰謝料の金額は高くなります。
平穏な期間が長く続いた分、配偶者が不倫を行って“裏切られた”ときのショックは大きいと考えられ、慰謝料の金額も高くなります。
(3)不倫発覚後の婚姻関係
不倫が発覚することにより、夫婦がお互いを信頼できなくなり、別居あるいは離婚をするケースは少なくありません。慰謝料を算定するにあたり、不倫が発覚して、夫婦がどのような状態になったかという状況も考慮されます。
別居が始まったあるいは離婚を決意した状態のことを、「婚姻関係が破綻した」と表現することもあります。
ただし、不倫が発覚する前から、婚姻関係が破綻していた、つまり、すでに別居を始めていたり、離婚に向けて動いていた場合は、あまり重要視されません。
- 婚姻期間が20年間ある夫婦において、夫が不倫相手との間に子をもうけ、妻が不倫相手に対し慰謝料を請求したものの、不倫開始時には、夫婦はすでに別居状態、つまり、婚姻関係が破綻していたとして、慰謝料請求が認められなかったケース(最高裁平成8年3月26日判決)
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(4)子どもの有無
不倫をされた当人とその配偶者の間に、子どもがいるかという点についても忘れてはなりません。
その背景には、配偶者の不倫行為がきかっけで離婚をし、子どもを一人で育てていくことになる精神的苦痛に配慮したものとされております。
平穏な生活を害されたという視点から考えた場合、配偶者に不倫をされ、離婚をせざるを得なくなった当人だけではなく、その子どもも不倫をした親に対して慰謝料の請求をすることができそうです。
しかし、親に対して、不倫行為による離婚に関する慰謝料の請求が認められるかについては判断が分かれています。
(5)不倫相手の状況
その他、不倫相手の行動や態度、経済状況が、不倫相手の慰謝料の算定に影響を及ぼす場合があります。
たとえば、最初は独身と思って付き合っていたが、既婚者と知ったため、別れたあるいは交際を続けることに消極的になった場合は減額の要素となります。
逆に、不倫発覚後や慰謝料を請求されて以降も不倫を継続していた場合は増額の要素となります。
- 夫が不倫行為を行ったケースにおいて、不倫行為は夫のみが積極的で、不倫相手は消極的であったこと、および不倫行為発覚後は謝罪文を妻に送るなど誠意ある態度を見せた事例において、婚姻期間が38年間もあるにも関わらず、認められた慰謝料が60万円にとどまったケース(東京地裁平成27年7月27日判決)
- 婚姻期間が6年間続いていた夫婦において、夫が不倫をしたため、妻が夫と不倫相手に対して慰謝料請求をしたケースにおいて、別れたと主張しておきながら、裁判提起後も不倫を継続していたため、慰謝料250万円の請求が認められたケース(東京地裁平成21年7月23日判決)
2.慰謝料が認められないケース
上記5つのポイントすべてを満たしており、おおよその慰謝料の相場が判明しても、慰謝料の請求が認められないケースがあります。
(1)時効が成立している
法律上、
① 不倫の事実および不倫相手(住所や氏名など)を知ってから3年
② 不倫が始まってから20年
のいずれか短い方の期間が成立すると、時効が成立し、慰謝料の請求ができなくなります。
つまり、①のケースだと、慰謝料の請求を迷ったり、しばらく不倫に気づかない不利をして、不倫を続けさせて、不倫期間を長期間にして高額な慰謝料を取得しようと考えていると、いつの間にか時効が成立している可能性があります。
②のケースですと、熟年離婚など婚姻期間が長い夫婦が離婚をする際、数十年前の不倫が発覚した場合、仮に不倫相手を特定したとしても、慰謝料の請求はできないということになります。
時効の問題は、2020年4月に法律(民法)が改正されており、かなり複雑となっております。決して自分で判断をせず、弁護士などの専門家に相談するようにしてください。
(2)不倫相手に対しては離婚に伴う慰謝料の請求は認められない
不倫行為の慰謝料は、精神的苦痛による損害賠償のことを指します。言葉で表現するならば、「不倫のせいで、傷ついた!慰謝料を払え!!」といった感じです。
また、不倫が発覚すると、離婚問題に発展することがあります。離婚をする際、財産分与以外にも有責配偶者(つまり不倫をした側)に対し、離婚をせざるを得なくなった慰謝料を請求することができます。
しかし、不倫相手に対しては、離婚に伴う慰謝料、つまり「不倫のせいで、離婚した!慰謝料を払え!!」といった請求はすることができません(最高裁平成31年2月19日判決)。
もっとも、不倫相手に対する慰謝料が「不倫で傷ついたことによる」慰謝料なのか、「離婚に伴う」慰謝料なのかは、専門家でも判断がつきにくい点でもあります。
3.総まとめ!不倫慰謝料の相場
不倫における慰謝料の相場が数十万~300万といっても、さまざまな要件で増減があることが分かりました。では、様々な要素のうち、比較的重要視される①婚姻期間②子どもの有無③不倫発覚後の婚姻関係の3つの要素に関する慰謝料の相場について見ていきましょう。
①婚姻期間に着目した慰謝料の相場(婚姻期間/慰謝料の相場)
- 1年未満
- 140万円
- 1年以上3年未満
- 150万円
- 3年以上5年未満
- 160万円
- 5年以上10年未満
- 180万円
- 10年以上20年未満
- 200万円
- 20年以上
- 210万円
②子どもの有無に着目した慰謝料の相場(子どもの有無/慰謝料の相場)
- 子ども有
- 190万円
- 子ども無
- 160万円
③不倫発覚後の婚姻関係に着目した慰謝料の相場(不倫発覚後の婚姻関係/慰謝料の相場)
- 婚姻関係継続
- 100万円
- 婚姻関係破綻(別居)
- 150万円
- 婚姻関係破綻(離婚)
- 200万円
※上記はあくまで裁判例に基づく目安の金額で、実際は様々な要素を加味して、相場が算出されます。
裁判に至らず、相手方と任意の交渉で解決する場合、必ずしも上記の金額に束縛される必要はありません。
しかし、不倫問題の解決の道しるべとなる慰謝料の相場の金額は、弁護士であれば誰でも同じ答えが出るというわけではありません。
経験豊富で浮気や不倫、離婚問題に強い弁護士だからこそ、数多くの事例を経験しており、より綿密な相場の金額が算出される結果になります。
浮気・不倫による慰謝料問題については、経験豊富な弊事務所までご相談ください。