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監修した弁護士

弁護士:大橋史典

弁護士法人プロテクトスタンス(第一東京弁護士会所属)
弁護士:大橋 史典

0.慰謝料は請求通りに支払う必要がある?

慰謝料は不倫の精神的な苦痛

不倫してしまった場合、不倫していた相手方の配偶者から、精神的な苦痛による損害を受けたとして、慰謝料を請求される可能性があります。

高額な慰謝料を請求されると、不倫をしたという落ち度があったとしても、「高すぎるから減額したい」「とてもじゃないが支払えない」などと考えることもあるでしょう。

慰謝料を請求されたからと言って、絶対に請求額通りに支払う必要があるわけではありません。事情によっては減額できるケースや、支払いを拒否できるケースもあります。

それでは、どのような場合に慰謝料の減額や支払い拒否ができるのか、解説していきます。

1.慰謝料の請求額に納得できなくても無視は危険!

まず、高額な慰謝料の請求に納得ができず、支払いたくないと考えたとしても、請求を無視するのは危険ということを理解しましょう。

慰謝料請求の主な方法として、請求者や請求者が依頼した弁護士から、内容証明郵便などを利用した文書が届き、支払いを求められることが一般的です。

請求者や弁護士からの請求を無視し続けていると、確実に慰謝料を支払わせるために、訴訟を起こされる可能性があります。
訴訟を起こされると裁判所から、原告(請求者)の言い分などが記載された「訴状」や、裁判所に来るよう求める「呼出状」、被告(請求された人)の反論を記載した書面(答弁書)の提出を求める「答弁書催告状」などの書類が届きます。

裁判所からの書類も無視し続け、裁判所への出席や、答弁書の提出をしなかった場合、請求者の言い分が認められ、敗訴してしまいます。
もし、非常に高額な慰謝料を請求されていたとしても、請求者の言い分に反論せず、全面的に認めたと裁判所から判断されてしまう可能性があるのです。

さらに、判決にもとづき請求者が必要な手続きを行えば、給与や預貯金などを差し押さえられてしまうリスクも考えられます。

高額な慰謝料を請求された場合は無視するのではなく、支払い拒否や減額ができないか確認し、できそうであれば交渉しましょう。

2.慰謝料の支払いを拒否できるケースがある

既婚者だと知らなかった、隠された

慰謝料を請求され、裁判で争うことになったとしても、請求が認められず、支払いを拒否できるケースがあります。
このようなケースでは、請求者と交渉し、支払い拒否を主張してもよいでしょう。

次に、支払いが拒否できるケースを把握しておきましょう。

2-1.性的関係がなかった

配偶者以外と二人で食事に行った、ハグやキスをした場合も「不倫した」と考える人がいるかもしれません。
しかし、法律上、慰謝料が認められるのは、原則として性的関係があった(不貞行為をした)場合です。不貞行為がなければ、慰謝料の支払いを拒否できると考えてよいでしょう。

2-2.既婚者だと知らなかった

不倫相手が既婚者だと知らなかった場合、故意に(わざと)不倫をしたわけではなかったとして、慰謝料の請求を拒否できます。ただし、「知らなかった」というのは、相手が独身だと積極的に噓をついていたなど、既婚者だと気付くことができなかった場合です。

注意すれば既婚者だと気付くことができたのに、きちんと確かめなかったような場合は、自分の過失(不注意)により既婚者だと知らなかったとして、慰謝料の請求が認められてしまう可能性があります。

2-3.婚姻関係がすでに破綻していた

不倫したときに、配偶者と長期間別居していたなど、婚姻関係が破綻していた場合、慰謝料の請求を拒否できます。
慰謝料請求は、不倫によって婚姻関係が壊されたことに対して行うものであり、すでに婚姻関係が破綻していれば、権利侵害が発生していないと考えられるからです。

2-4.不倫の証拠がない

ラブホテルを出入りしている写真や、不貞行為をしたことが明確にわかるLINEやメールなど、不倫していたことを示す証拠がない場合は、慰謝料を請求されても拒否できます。

2-5.時効が成立している

慰謝料には請求できる期間に制限(時効)があります。 具体的には「配偶者が不貞行為の事実を知ってから3年」または、「不貞行為が始まってから20年」です。この期間を過ぎると時効が成立(完成)したことを理由に、支払いを拒否できます。

3.慰謝料を減額できる可能性があるケースとは?

慰謝料は不倫の精神的な苦痛

これまで説明した慰謝料の支払いを拒否できるケースに該当しない場合でも、事情によっては、交渉により減額できたり、裁判で減額が認められたりする可能性があります。
主な事情について説明します。

3-1.相場より高額な慰謝料を請求された

慰謝料の金額は、婚姻期間、不貞行為の期間や回数、子供の有無、別居や離婚といった不倫による家庭への影響など、様々な事情を考慮して算出されます。
過去の裁判で認められた慰謝料の相場は、数十万円から300万円ほどです。

裁判の結果、1,000万円の慰謝料が認められる可能性もゼロではありませんが、相場を大幅に超える請求に対しては、減額を求めてもよいでしょう。

3-2.婚姻期間が短い

婚姻期間が短いと、慰謝料の請求者に与えた精神的苦痛も少ないと考えられるため、慰謝料の減額が認められる可能性があります。

3-3.不貞行為の期間が短い、回数が少ない

婚姻期間が短いのと同様の理由により、不貞行為に及んだ期間が短かったり、回数が少なかったりするケースでは、慰謝料の減額が認められる可能性があります。

3-4.夫婦に子どもがいない

夫婦に子どもがいると、不倫で婚姻関係が破綻した場合の影響が大きくなるため、裁判で高額な慰謝料が認められる可能性もありますが、子どもがいなければ減額が認められる可能性があります。

3-5.自分だけ請求された

たとえば、不倫相手の配偶者が、自分にだけ慰謝料請求してきた場合、「不倫の責任は相手にもあるはずなのに、なぜ自分だけが支払うのか」と考えるでしょう。

もし自分だけが慰謝料を支払った場合は、原則として慰謝料の半額分を自分に支払うよう不倫相手に求める権利(求償権)があります。
不倫相手が離婚しない場合などでは、求償権を使わないことを条件に、慰謝料の減額が認められる可能性もあります。

3-6.ダブル不倫だった

既婚者同士が不倫(ダブル不倫)したケースは、それぞれの配偶者が不倫の被害者になります。
このケースにおいてどちらの夫婦も離婚しない場合、それぞれの配偶者が不倫相手に慰謝料請求しても、金銭的に相殺されることになるので、慰謝料の減額や、請求の取り下げを交渉できる可能性があります。

3-7.収入・資産が少ない

収入や資産が少ない場合でも、慰謝料を支払わなくてよいということにはなりません。ただし、収入や資産が少ないことを理由に、減額を認めてもらえる可能性はあります。

たとえば、相手が100万円の慰謝料を一括で支払うよう求めている場合で、もし、資産が80万円の貯金しかなければ、「80万円であれば支払うことができる」と減額交渉できるかもしれません。

減額が認められなかった場合や、減額してもらえても支払いが困難な場合は、分割払いを認めるよう交渉してもよいでしょう。

4.拒否・減額できるかは専門知識が必要、弁護士にご相談を

これまで説明してきた支払いを拒否できるケースや、慰謝料を減額できるケースに当てはまらない場合でも、拒否したり減額を求めたりすることそれ自体は可能です。

しかし、請求者は不倫されたことに怒りや悲しみを感じており、慰謝料の支払い拒否や減額に応じるとは考えにくく、裁判でも認められない可能性が高いでしょう。

支払い拒否や減額が可能かどうかを検討し、可能だと判断した場合に、請求者との交渉を通じて、拒否や減額ができる合理的な理由を主張することが重要です。
交渉がまとまらなければ訴訟を起こし、裁判を通じて、拒否や減額を求めていくことになります。

ただし、自分自身で慰謝料の拒否や減額を求めて交渉したり、訴訟を起こしたりするのは簡単なことではありません。
拒否や減額が実際に認められるのか、どの程度の減額になるかは、相手方との交渉や個別具体的な状況によって異なるため、その判断には専門的な法律知識と経験が求められるからです。

また、訴訟になれば、裁判所に慰謝料の拒否や減額を認めてもらうために、どのような証拠をどのように使って主張・立証していくか判断する、極めて難しい作業が必要になります。

ましてや、相手の弁護士から慰謝料を請求された場合、独力でこれに立ち向かうことは困難です。慰謝料を請求された場合は、極力早い段階で、弁護士に相談することをおすすめします。