目次
0.慰謝料の性質とは

浮気・不倫相手の不貞行為に対して慰謝料を請求し、慰謝料を獲得した場合、受け取った慰謝料に税金はかかるのでしょうか。
また、離婚成立時に配偶者から受け取る慰謝料には税金がかかるのでしょうか。せっかく受け取った慰謝料に税金を払わなければならないのか、と心配されている方も多いかと思います。
そこで、今回のコラムでは、気になる慰謝料と税金をテーマに弁護士が解説していきます。
まず、受け取った慰謝料の性質から考えてみましょう。
慰謝料とは、精神的・肉体的な苦痛を受けたことを補填する性質を持った損害賠償のことです。
浮気・不倫相手が自分の配偶者との不貞行為におよんだ場合、平穏な婚姻生活の維持という法律上守られるべき利益が侵害されています。この不法行為に対する損害賠償が慰謝料なのです。
また、そのような不貞行為が原因で離婚に至ってしまった場合、不貞行為におよんだ配偶者は貞操義務に違反しています。そのため、離婚原因を作った側の配偶者(有責配偶者)に対しても同様に、慰謝料を請求できることになります。
厳密にいうと、離婚せざるを得なくなったことで被った精神的苦痛に対する離婚慰謝料、不倫されたことの精神的苦痛に対する不貞慰謝料などの区別はあるのですが、慰謝料が請求できることは間違いありません。
1.原則的には非課税?確定申告は必要?
そして、このような慰謝料は、損害の補填(埋め合わせ)をするものですから、新たに何かの利益を得たわけではありません。そのため、原則的に慰謝料は課税対象にはならず、所得税や贈与税などの税金はかかりません。
税法上も、心身に加えられた損害について支払を受ける慰謝料については非課税とする旨が規定されています(所得税法9条1項17号、所得税法施行令第30条3号)。
そのため、確定申告は必要ありません。
ちなみに、「慰謝料」という名目ではなく、示談金、解決金、謝罪金など他の名目で支払われた場合の金銭も同じです。
2.例外的に課税される場合
ただし、このような性質の慰謝料であっても、例外的に課税されるケースがありますので紹介していきます。後日、トラブルに巻き込まれることのないようにしましょう。
2-1.慰謝料が高額過ぎる場合

法律上、慰謝料の金額を算定する明確な基準は示されていません。
しかし、裁判になった場合には、過去の裁判例の積み重ねにより、不貞行為の慰謝料や離婚慰謝料の相場というものは存在しています。
そのため、その相場を参考にしつつ、離婚に至った事情、配偶者との婚姻年数、子どもの有無、不貞行為の期間や頻度、不倫相手との子どもの有無、年収や資産などの経済状況など、個別具体的な様々な事情を考慮しながら、慰謝料の金額は算出されます。
一般的に不貞行為の慰謝料や離婚慰謝料の相場は、50万円~300万円程度になることが多いものです。
このとき、慰謝料の金額が3,000万円や5,000万円を超えるような高額な慰謝料だった場合はどうでしょうか。
このような、慰謝料の金額が世間一般的な常識金額とはかけ離れて高額であるなど、社会通念上相当な範囲を超えていると判断された場合、超過部分が贈与であると認定され、贈与税が課される可能性もあり得ます。
さらに、慰謝料という名目を借りて、課税を回避するための財産移転や資産隠しなどを疑われてしまう可能性もゼロではありません。
2-2.慰謝料代わりに不動産が譲渡された場合

現金ではなく、自宅を慰謝料代わりに受け取りたいというご相談を受けることがあります。
そこで、夫から妻へ慰謝料の代わりに不動産が譲渡された場合について、考えてみることにしましょう。
実はこの場合、譲渡されるタイミングが非常に重要です。譲渡される時期が離婚成立の前か後かで税金を巡る状況が大きく変わってくるからです。
(1)贈与税について
離婚成立前に慰謝料として不動産が譲渡された場合、不動産を受け取った妻には、贈与税が課されるのが原則です。夫婦間での財産の譲渡であっても、贈与税の課税対象となる点に変わりはありません。
ただし、贈与税には110万円までの基礎控除がありますし、配偶者控除の条件に当てはまれば、2,000万までの配偶者控除が受けられます。
【配偶者控除が受けられる条件】
- 夫婦の婚姻期間が20年を過ぎた後に贈与が行われたこと
- 配偶者から贈与された不動産が居住用であること、または、居住用不動産を取得するための金銭であること
- 贈与を受けた翌年の3月15日までに、不動産を譲り受けた配偶者が、贈与により取得した居住用不動産または贈与を受けた金銭で取得した居住用不動産に居住し、その後も居住し続ける見込みがあること
つまり、配偶者控除が使える場合には、基礎控除と合わせて、2,110万円までは非課税となります。もし、不動産の評価額が2,110万円まであれば、贈与税はかかりません。
なお、配偶者基礎控除はあくまでも居住用不動産が対象になり、セカンドハウスや別荘、投資目的の不動産は含まれませんので、注意してください。
次に、離婚成立後に不動産が譲渡された場合はどうでしょうか。
この点、離婚に伴う慰謝料・財産分与として、贈与税は課税されないのが原則です。特に財産分与は、夫婦の共有財産を清算するためのものですので、贈与ではないからです。
しかし、不動産の評価額が財産分与の範囲を著しく超えているような場合には、その超過分について課税対象になる可能性があります。
(2)不動産譲渡税(譲渡所得税)について
離婚成立前に夫から妻に慰謝料として不動産を譲渡した場合、譲り渡した夫に譲渡所得税が課されることがあります。
この場合、夫は不動産売買により第三者に不動産を譲渡して利益(所得)を得たわけではありません。しかし、夫に譲渡所得税が発生する場合があるのです。これはなぜでしょうか?
それは、税務上、夫はいったん不動産を売却して現金を得たものと考え、その売却代金で妻に対する慰謝料債務の支払いを履行したものとみなされるからです。
そのため、もしも、不動産の入手時の購入代金と譲渡時の評価額の差額がプラスになっていれば、そこが譲渡所得として課税されるのです。もちろん、差額がマイナスあるいは同額であれば、課税されることはありません。
では、離婚成立後に不動産の譲渡があった場合は、どうなるのでしょうか。
実は、先ほどの譲渡所得税には、自宅を第三者に譲渡した場合、3,000万円までの譲渡所得を特別控除してくれるという特例措置があります(確定申告が必要です)。
ただし、この特例措置は夫婦間には適用されません。あくまでも、第三者の他人に譲渡した場合に適用されます。
離婚成立後であれば、法的には元夫から元妻という他人への譲渡となりますので、この特例措置が適用されるのです。
なお、仮に譲渡所得が発生した場合であっても、軽減税率の特例の要件を満たしていれば、課税所得金額が6,000万円までの場合は譲渡所得の税率が10%まで、6000万円を越える場合はその超過部分に15%の税率に600万円を加えた金額がそれぞれ軽減されます。
[整理]離婚時の不動産譲渡に関して検討すべき控除
- 離婚成立前に不動産を譲渡 → 贈与税の配偶者控除
- 離婚成立後に不動産を譲渡 → マイホームの特別控除
(3)不動産取得税について
離婚の成立前後を問わず、慰謝料として不動産を譲り受けた場合、不動産取得税が課税されることがあります(ただし、特例控除が受けられる場合もあります)。
しかし、離婚成立後に財産分与として不動産を譲り受けた場合、不動産取得税は課税されません。そのため、不動産の譲渡は、離婚成立後に財産分与として行うべきです。
上述の通り、財産分与は夫婦の共有財産を清算することが目的であり、贈与や売買による不動産の取得とは事情が異なるからです。
なお、不動産を取得した場合、法務局に不動産登記の手続をするために登録免許税(固定資産評価額の2%)がかかります。
また、不動産を所有することになりますので、固定資産税(固定資産評価額の1.4%)も支払わなければなりません。
そのため、離婚協議書に「不動産取得税は夫が支払う」などと記載し、支払義務を回避することも有効な手段の1つでしょう。
2-3.慰謝料を第三者が代わりに支払った場合

本来、慰謝料を支払うべき当人に資力が足りない場合など、親族などの第三者に慰謝料の支払いを肩代わりしてもらうことがあります。
この場合、当人が第三者から金銭を受け取って慰謝料に充てるものとみなされるため、贈与税が課税されることがあります。
ただし、あくまでも慰謝料を支払う側の問題ですので、慰謝料を受け取る側には関係がありません。
2-4.偽装離婚とみなされた場合

離婚する意思がないにもかかわらず、対外的には離婚届をあえて出して、離婚を装うことを偽装離婚と呼びます。
当然ですが、偽装離婚の場合、離婚による精神的・肉体的な苦痛は存在しないため、それを補填すべき慰謝料は必要ありません。
つまり、支払われた慰謝料は、名目上は慰謝料ですが、実態としては夫婦間の財産の移転となります。そのため、慰謝料は贈与税の対象となります。
誠に残念ですが、慰謝料という名目を借りて財産を移転させ、資産隠しなどの脱税目的や、債権者からの強制執行を逃れる目的のために、偽装離婚が利用されることがあります。
3.慰謝料を支払った側は税金が控除されるの?
それでは、慰謝料を支払った側は、その金額について所得控除を受けたり、経費に計上することができるのでしょうか。
税法上、慰謝料について所得控除は認められませんし、確定申告の際の必要経費としても計上することはできません(所得税法第45条1項7号)。
4.総まとめ!慰謝料と税金
損害賠償という性質上、原則的に慰謝料は課税の対象にはなりません。
しかし、慰謝料が高額な場合や慰謝料代わりに不動産を譲渡する場合など、課税対象になり得る場合があります。
高額な財産の場合、税率が僅か数%の違いであったとしても、大きな金額の負担になります。慰謝料や離婚の手続の進捗に合わせて、複雑な税制度の仕組みに対応するには、弁護士と税理士の両方からのサポートが欠かせません。
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