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監修した弁護士

弁護士:大橋史典

弁護士法人プロテクトスタンス(第一東京弁護士会所属)
弁護士:大橋 史典

0.同性間の不倫であっても慰謝料を請求できる可能性はある!

同性間の不倫でも慰謝料は請求できる?

不貞行為による慰謝料の請求は、これまで、妻から夫または不倫相手(女性)、あるいは、夫から妻または不倫相手(男性)に行うことが一般的でした。

しかし、近年、同性同士の不倫に対しても、慰謝料請求が認められてきています。
この背景には、SDGsに象徴される通り、ジェンダー平等の考え方が普及し始め、多様性が尊重されていることがあるのではないでしょうか。

今後は、自分の性自認を主張しやすくなっていくことからも、同性間でのトラブル(特に浮気・不倫)も、今後ますます増加してくると考えられます。

そこで、今回のコラムでは、同性同士で不倫された場合の夫婦や同性カップルの事例を取り上げ、慰謝料の請求について解説していきます。

1.同性同士の場合でも不倫になるの?

そもそも浮気・不倫とは、法律上は「不貞行為」と呼び、配偶者を持つ者が、自由な意思にもとづいて配偶者以外と性的関係(性交渉)を持つことをいいます(最高裁第一小法廷昭和48年11月15日判決)。

肉体関係(性交渉)を持つことが必要ですから、単に食事に行った場合やキス、ハグといった行為は、不貞行為に該当しないことになります。

また、不貞行為は法定離婚原因(民法第770条1項)とされています。
そのため、不貞行為を理由として、離婚訴訟を裁判所に提訴することができます。
このように、不貞行為は、性交渉が前提となっていることから、同性不倫の場合は不貞行為にならないのではないかと考えられます。

しかし、近年の裁判例では、同性同士の不倫であっても、「性交類似行為」があれば不貞行為と認定され、慰謝料の支払いが実際に認められています。
このように、不貞行為の範囲は広がりつつあるのです。

性交類似行為[せいこうるいじこうい] とは?

2.同性不倫に対してどのように慰謝料請求するの?

同性不倫による慰謝料請求は、不貞行為のほかに一定の条件があります。
次に、この条件について解説していきます。

2-1.不貞行為による慰謝料を請求する条件

不貞行為による慰謝料を請求するためには、次の条件が必要です。

  • 婚姻生活の平和を害するような性的行為があった(性交類似行為含む)
  • 婚姻または婚姻に準ずる関係(内縁)であること

男女間で結婚している(異性婚)場合、法律上の夫婦であることから、同性の不倫相手に対しても慰謝料を請求することができます。
この点、たとえ内縁関係にあっても、慰謝料を請求できる可能性があります。

次に、同性カップルの一方が、同性不倫をした場合はどうなるのでしょうか。
現在、同性カップルは、同性婚が認められていないことから、法律上の夫婦になることができません。
しかし、「パートナーシップ制度」を活用することにより、「婚姻に準ずる関係」という地位を得ることができ、慰謝料を請求できるようになります。

次に、各条件を①結婚生活の平和を害する行為、②婚姻に準ずる関係にポイントを絞ってみていきましょう。

2-2.「婚姻生活の平和を害する」とは

婚姻生活の平和を害するという言葉は聞きなれないかと思いますが、法律上の夫婦は、互いに夫婦生活の平穏を維持していく義務があります。
それにもかかわらず、浮気・不倫をした場合、配偶者はこの義務に反していることになり、夫婦の日常生活を害することになります。

この婚姻生活の平和を害する行為には、性交渉のみでなく、性交類似行為も含まれるところがポイントです。
性交類似行為とは、たとえば、手淫、口淫、ラブホテルで裸で抱き合うことなどをイメージしてもらえればと思います。

たとえ、性交渉がなかったとしても、夫婦の一方は精神的な苦痛を被りますから、広く婚姻生活の平和を害する事由が認められていると考えられます。

2-3.「婚姻に準ずる関係」とはどんな関係?

内縁とは、夫婦になる意思があり、生活の実態は夫婦と変わらないが、何らかの理由で婚姻届を提出していない状態のことです。
このことを実務上では、「婚姻に準ずる関係」と呼んでいます。

内縁に関する詳しい説明は別のコラムでも解説しておりますので、ご確認ください。

内縁関係なのに浮気、不倫をされた!慰謝料は請求できるの?

この点について、同性カップルであっても、慰謝料請求が認められる余地が出てきました。
自治体が推奨している「パートナーシップ制度」を活用すれば、婚姻に準ずる関係と認められ、内縁関係にあることを証明することができます。

このため、たとえ同性カップルであっても、不倫による慰謝料の請求が認められる可能性が高くなりました。

2-4.慰謝料を請求するためには証拠が必要

不貞行為により慰謝料を請求するには、証拠が必要となりますので、事前に適切な証拠を収集しておきましょう。

実際のケースでは、相手が「不倫していない」などと争ってくることが多いため、請求する側が証拠にもとづいて立証しなければならないからです。

どのようなものが不貞行為の証拠になるのか、収集の方法などについては、別のコラムでも解説しておりますので、こちらもご覧ください。

浮気や不倫の証拠になるもの、ならないもの

3.慰謝料の金額はどのくらいになる?

慰謝料はどのくらい請求できる?

浮気・不倫による慰謝料の金額は、一般的に50~300万円とされています。
具体的な判断については、婚姻期間、子どもの有無、不倫期間や回数、不倫によって婚姻関係(婚姻に準ずる関係)にどのような影響が生じたか、既婚者と知っていた(知らなかった)といった様々な要素を考慮して判断されます。

この点、たとえ同性不倫であっても、考慮するポイントは変わらず、同性不倫の実態(性交類似行為など)や不倫期間の長さなどが考慮されます。

同性同士の不倫であることを理由として、慰謝料が著しく減額されることはありませんが、先例が少ないため、相場を事前に決めることが難しいこともあります。
これまでの裁判例で、同性不倫、同性カップルの一方が不倫した場合の慰謝料の金額は以下の通りです。

・東京地裁令和3年2月16日判決(同性不倫)・・・11万円
・東京高裁令和2年3月4日判決(同性カップルの一方が不倫)・・・110万円

双方とも決して高額ではありませんが、事例によっては今後、高額な慰謝料が認められる可能性があるといえるでしょう。

4.まとめ

不貞行為による慰謝料請求では、その夫婦や不倫相手のセクシャリティに関係なく、請求が認められる傾向になってきたことを理解いただけたと思います。

以前は、同性不倫に対する慰謝料請求は認められない場合がほとんどでした。
実際に、「同性間の性行為は不貞行為ではない」と判断した裁判例もあります(名古屋地裁昭和47年2月29日判決)。

しかし、上記に掲載した最近の裁判例では、性の多様性が尊重されている背景から、認められるようになってきました。
今後、不貞行為の実態によっては、高額な慰謝料も認められるのではないでしょうか。

弊事務所では、不貞行為の慰謝料請求に関する経験豊富な弁護士が多数在籍しています。
同性不倫による慰謝料を請求できるか、また、慰謝料を請求されてしまったなどの不安がある際は、ぜひ一度ご相談ください。