Q.離婚後に旧姓に戻れなくなることがあるって本当ですか!?

A.結婚して配偶者の名字(氏)になり、離婚後も名字を変えないことを選択すると、簡単には旧姓に戻せなくなるため、注意しなければなりません。どうしても旧姓に戻したい場合、家庭裁判所に「氏の変更許可」の審判を申し立てて、「やむを得ない事由」があると認められる必要があります。

1.離婚後も婚姻中の名字を使うことができる

婚姻時に自分の名字を配偶者の名字に変更した場合、離婚すると原則として旧姓に戻ります。旧姓に戻ることを「復氏」(ふくし/ふくうじ)と呼びます。

もし、元配偶者の名字を使い続けたい場合、「婚氏続称」(こんしぞくしょう)という手続きにより、離婚後も元配偶者の名字を使い続けることができます。

婚氏続称を希望する場合、「離婚の際に称していた氏を称する届」に必要事項を記入し、離婚届と一緒に市区町村役場へ提出してください。また、離婚した日から3か月以内であれば、離婚後に提出することも可能です。

離婚後は復氏するケースが多いようですが、名字を変えなかった人は、次のような理由で婚氏続称を選択したようです。

(1)離婚したことを知られたくない

離婚したことを周囲に知られたくないと考える方もいるでしょう。婚氏続称によって名字を変えないことで、離婚を知られるリスクを抑えられます。

(2)名義変更の手間をかけたくない

名字が変わると、保険証やマイナンバーカード、運転免許証、クレジットカード、銀行などの名義を変更しなければなりません。婚姻中の名字を使い続けることで名義変更の手間がなくなります。

(3)子どもの名字を変えたくない

旧姓に戻った人が親権者となり、子どもを自分の戸籍に入れると、子どもの名字も旧姓に変わります。

急に名字が変わると、子どもが学校でからかわれたり、余計な詮索を受けたりするのではないかと心配する方もいるかもしれません。婚氏続称をすることで、自分の戸籍に入れても子どもの名字を変える必要がなくなります。

(4)婚姻中の社会的な実績に影響を与えたくない

婚姻中に論文の発表や記事の公開、書籍の出版などをしていた場合、離婚して旧姓に戻ると、自分が執筆者であることの証明が面倒になるかもしれません。

また、婚姻中の名字で知名度や信用性を築いてきた方は、そのまま名字を使い続けることで、婚姻中の社会的な実績への影響を減らすことができるでしょう。

2.婚氏続称をした人が旧姓に戻したい場合

婚姻中の名字を使っていても、元配偶者との関係が悪化した、子育てが終わった、家業を継ぐといった理由で、旧姓に戻したいと考える方もいるでしょう。ただし、婚氏続称をした場合、旧姓に戻すためには裁判所の許可を得なければなりません。

具体的には、自分の住所地を管轄する家庭裁判所に「氏の変更許可」の審判を申し立てます。そして、旧姓に戻ることについて、やむを得ない事由があると裁判所から認められる必要があるため、旧姓に戻したい理由を丁寧に説明しましょう。

3.婚氏続称をした人が2度目の離婚をする場合は注意

最初の離婚後に本来の名字に戻していれば、2度目の離婚後もすぐに本来の名字に戻すことができます。

しかし、婚氏続称を選択した場合には注意が必要です。2度目の離婚後の名字は、次のどちらかを選ぶことになるため、本来の名字に戻ることができなくなるからです。

  • 結婚前の名字(1人目の元配偶者の名字)に戻る
  • 婚姻中の名字(2人目の元配偶者の名字)を使い続ける

もし、本来の名字に戻したい場合は、やはり「氏の変更許可」を申し立てなければなりません。しかし、2度の結婚と離婚を証明するために、すべての戸籍謄本を集める必要があるなど、煩雑な手続きを進めることになります。

1度目の離婚の際に、2度目の離婚まで見据える方は少ないかもしれませんが、本来の名字に戻っておかないと2度目の離婚時に困ってしまうということを、頭の片隅に置いておきましょう。

4.名字の選択は慎重にしましょう

「旧姓は自分の本来の名字だから、いつでも戻れる」と考える方もいるかもしれません。しかし、名字は個人を識別するための重要な手段なので、簡単に変更できると社会に混乱を招いてしまいます。

そのため、婚氏続称をした人が旧姓に戻るには裁判所での煩雑な手続きが必要になるのです。離婚後も婚姻中の名字を使い続けることには多くのメリットがありますが、婚氏続称と復氏のどちらを選択するか慎重に判断しましょう。

この記事を監修した弁護士

弁護士
金岡 紗矢香

弁護士法人プロテクトスタンス所属 (第一東京弁護士会 No. 56462)

早稲田大学法学部を卒業後、国内大手飲料メーカー勤務などを経て中央大学法科大学院法務研究科を修了(70期)。弊事務所に入所後は子育てをしながら弁護士として活動し、浮気・不倫の慰謝料請求や離婚・男女問題などの分野で活躍中。

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