慰謝料・離婚の法律用語集
性交拒否[せいこうきょひ] とは?
夫婦または婚姻関係に準ずるパートナー間において、一方から性交渉の求めがあったにもかかわらず、他方が正当な理由なくそれを拒むことです。
意味
目次
- 0.はじめに
- 1.性交拒否とセックスレスとの違い
- 2.性交拒否を理由に離婚できるか?
- 3.性交拒否に正当な理由が認められやすいケース、認められにくいケース
- 4.性交拒否による離婚慰謝料は認められるのか?
- 5.性交拒否をめぐる裁判例の紹介
- 5-1.東京地裁平成29年8月18日判決
- 5-2.岡山地裁津山支部平成3年3月29日判決
- 5-3.福岡高裁平成5年3月18日判決
- 6.性交拒否の立証が難しい理由と証拠の集め方
- 7.性交拒否でお悩みなら弁護士へご相談を
0.はじめに
夫婦関係を維持するうえで、性生活は心身の健康や相手との信頼関係を築くための重要な要素です。しかし、どちらか一方の意思に反して、性交拒否が続く場合、精神的な苦痛が生じるだけでなく、夫婦関係そのものが破綻してしまうこともあります。
「配偶者に性交渉を拒否され続けているが、これを理由に離婚できるのか」
「拒否され続けた精神的苦痛に対して、慰謝料を請求できるのか」
この記事では、性交拒否の定義やセックスレスとの違い、法定離婚原因との関係や慰謝料の請求、立証が困難とされる理由と具体的な証拠集めの方法について、弁護士がわかりやすく解説します。
1.性交拒否とセックスレスとの違い
夫婦間における性交拒否とは、夫婦の一方が性交渉を求めたにもかかわらず、他方がそれを正当な理由なく拒絶することを意味します。
その一方で、セックスレスは、病気などの特殊な事情が認められないにもかかわらず、夫婦間で性交渉が1か月以上ない状態で今後も長期にわたると予想される場合と定義されます(一般社団法人 日本性科学会による)。
この点、セックスレスには、双方とも性交渉を望んでおらず、自然と性交渉しなくなった場合も含みますが、性交拒否は一方が希望しているにもかかわらず、他方が拒否している点で異なります。

2.性交拒否を理由に離婚できるか?
離婚する場合、夫婦間でお互いに話し合って同意すれば、たとえどのような理由であっても離婚が成立します(協議離婚)。そして、離婚調停でも、双方が合意すれば離婚が成立します。
しかし、相手が離婚に応じない場合、裁判離婚を成立させるためには、民法に定める離婚原因(法定離婚原因)が必要です。
2026年4月1日に施行された改正民法の770条1項では、法定離婚原因として次の4つを定めています。
- 配偶者に不貞な行為があったとき
- 配偶者から悪意で遺棄されたとき
- 配偶者の生死が3年以上明らかでないとき
- その他婚姻を継続し難い重大な事由があるとき
性交拒否は独立した法定離婚原因としては明記されていません。しかし、性交拒否が長期間継続し、その結果、夫婦関係が修復困難なほど破綻してしまうと「婚姻を継続し難い重大な事由」に該当するものとして、離婚が認められる可能性があります。
つまり、性交拒否を理由とした離婚を裁判所に認めてもらうためには、性交拒否の事実だけでなく、婚姻関係が破綻しているかどうかという観点が重要なのです。
また、「性交渉が1年間なければ必ず離婚できる」などの一律の基準はありません。性交渉がなかった期間だけでなく、婚姻期間、年齢、健康状態、出産や育児の状況、別居期間なども含めて判断されます。
3.性交拒否に正当な理由が認められやすいケース、認められにくいケース
たとえ夫婦であっても、性交渉に応じることを法的に強制されるわけではありません。性交渉にはお互いの同意が必要であり、配偶者の意思に反して強要することは許されません。
- 性交拒否に正当な理由があると認められやすいケース
- ・加齢による体力の低下や性欲の減退
・病気やケガなどの心身の不調、服薬の影響、身体的障害
・妊娠、出産、産後の身体的負担
・配偶者からのDVやモラハラ
・夫婦間で性交渉をしないという合意がある
- 性交拒否に正当な理由が認められにくいケース
- ・単に「気分が乗らない」「面倒くさい」といった理由
・繰り返し話し合いを求めたが、理由なく一方的に拒否し続ける
・治療可能な状態であるのに医療機関への受診を拒否する
・AV鑑賞や自慰行為にふけり、配偶者を無視する
4.性交拒否による離婚慰謝料は認められるのか?
正当な理由のない性交拒否により婚姻関係が破綻して離婚に至った場合、相手に対して精神的苦痛による離婚慰謝料を請求することができます。
慰謝料の金額は、性交拒否の期間や態様、婚姻期間、子どもの有無、精神的苦痛の程度、暴言や不貞行為などほかの有責行為の有無など、個別具体的な事情を考慮して決められます。
本来、性交拒否を理由に離婚できることと慰謝料を請求できることは、別の問題ですし、単に夫婦間の性交渉が少ない、性欲や希望する頻度が合わないといった事情だけでは、慰謝料請求は認められませんので、注意してください。
5.性交拒否をめぐる裁判例の紹介
性交拒否を理由とした離婚や慰謝料の請求は、夫婦間の極めてプライベートな問題であるため、「本当に裁判で認められるのだろうか」と不安に感じる方も少なくありません。ここでは、性交拒否に関する主な裁判例を紹介していきます。
5-1.東京地裁平成29年8月18日判決
交際期間から新婚、別居に至るまで一切の性交渉がなく、キスやハグといった身体的な接触も拒否され続けた事案です。
妻が不安を夫に伝えても状況は改善されず、裁判所は夫の妻に対する不法行為を認め、慰謝料50万円の支払いを命じました。
本件は、夫婦間での性交拒否が不法行為となり得ることを明確に示した重要な裁判例です。裁判所は、性的な営みを婚姻関係の重要な基礎と位置づけつつも、「単なる性的欲求の解消ではなく、精神的結合を深める意義がある」と指摘しています。
妻は夫に対して500万円の慰謝料を請求しましたが、その認容額が50万円にとどまったのには、婚姻期間が1年と短かったこと、また、妻が結婚後も独身時代と変わらない生活を続け、夜遅く帰宅したり、朝帰りをしたりしていたことも考慮されています。
5-2.岡山地裁津山支部平成3年3月29日判決
妻が婚姻当初から夫の性交渉を拒否し続け、夫婦間に一度も性交渉が無かった事案です。
妻には性交拒否のほか、夫に対する暴言や暴力などの事情もあり、裁判所は、妻の継続的な性交拒否によって夫婦の融和を欠き、こうした言動・行動もあって婚姻関係が破綻したと認定し、妻に対して慰謝料150万円の支払いを命じました。
この裁判例も婚姻後一貫して性交拒否された事例であり、婚姻期間はわずか9か月しかありませんでした。しかし、150万円の慰謝料が認められたのは、単なる性交拒否だけではなく、妻が「異性に身体を触られると気持ちが悪い」という趣旨の発言をしたり、性交渉を求める夫に対して暴言や暴力をたびたび振るったりしていた状況があったからです。
5-3.福岡高裁平成5年3月18日判決
夫婦間の性交渉が入籍後約5か月間に2~3回程度しかなく、その後は全く性交渉がなかった一方で、夫はAV(アダルトビデオ)を観ては、自慰行為(いわゆるマスターベーション)をしていた事案です。
妻から性交拒否や性生活について問題を指摘すると、夫はいったん改善を約束したものの、その後も状況は変わりませんでした。裁判所は、性生活の問題に加え、夫が家庭を顧みる努力が十分でなかったことや、妻が夫への愛情を失っていたことなども考慮し、婚姻を継続し難い重大な事由があるとして離婚を認め、慰謝料120万円の支払いを命じました。
6.性交拒否の立証が難しい理由と証拠の集め方
性生活は寝室など夫婦間の極めてプライベートな領域で行われます。そのため、性交拒否による離婚や慰謝料請求において、それが争点となった場合、相手が拒否したという事実を立証することは難しいものがあります。
一般的な民事事件のように、客観的な証拠や第三者の目撃証言が存在しにくいのです。「明らかに拒否したわけではない」とか「そういう雰囲気ではなく、要求されていると感じなかった」「自分はいつでも応じるつもりだった」と反論されてしまうと、水掛け論になってしまうケースが少なくありません。
以下のような証拠を積み重ねていきながら、性交渉できるはずなのに応じてくれないという事実を証明していくことが必要です。
- 裁判や交渉で有効となる証拠の一例
- ・LINEなどのSNS、メール、手紙などのやり取り
・夫婦間の話し合いの音声の録音データ
・日記や備忘録などのメモ
・夫婦カウンセリングなどの相談記録
・精神的ストレスから精神科や心療内科を受診した場合の医師の診断書
7.性交拒否でお悩みなら弁護士へご相談を
性交拒否が継続的に続いており、夫婦関係に深刻な影響を及ぼしている場合には離婚原因として考慮されたり、事情によっては慰謝料請求が認められたりする可能性があります。
ただし、性交拒否があれば必ず離婚や慰謝料請求が認められるわけではありません。拒否に至った理由や期間、夫婦関係の状況、婚姻関係が破綻した経緯などを踏まえ、個別具体的に判断されます。
「性交拒否を理由に離婚できるのか」「慰謝料を請求できる可能性があるのか」「どのような証拠を集めればよいのかわからない」とお悩みの方は、一人で抱え込まず、弁護士法人プロテクトスタンスへご相談ください。
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