Q.肉体関係のある相手の「内縁のパートナー」から慰謝料を請求されました。結婚していないのに支払う必要はありますか?

A.肉体関係を持った人に、内縁関係(事実婚)の状態にあるパートナーがいる場合、不貞行為の慰謝料を請求されれば、慰謝料の支払い義務が生じる可能性があります。

しかし、請求を拒否したり、大幅に減額できたりするケースも少なくありません。高額な請求を受けても慌てて応じるのではなく、まずは落ち着いて、支払いの拒否や減額が可能か確認しましょう。

(1)なぜ内縁関係(事実婚)でも不貞行為の慰謝料が認められるのか?

そもそも「内縁関係」とは、婚姻届を提出していなくても、夫婦関係を成立させる意思(婚姻意思)があり、夫婦同然の共同生活を送っている男女関係のことです。「事実婚」とも呼ばれ、法的に保護されるべき対象とされています。

法律上の夫婦ではないにもかかわらず、内縁関係(事実婚)が法的に保護されるのは、最高裁判所の判例によって「婚姻に準ずる関係」だと考えられているからです。

いわゆる内縁は、婚姻の届出を欠くがゆえに、法律上の婚姻ということはできないが、男女が相協力して夫婦としての生活を営む結合であるという点においては、婚姻関係と異なるものではなく、これを婚姻に準ずる関係というを妨げない

内縁関係は「婚姻に準ずる関係」なので、パートナーの不貞行為に対する慰謝料請求が認められますし、内縁関係の解消に伴う財産分与など、法律上の婚姻関係のある夫婦と同様の権利や義務を一定の範囲内で有しています。

そして、内縁のパートナーがいる人と肉体関係を持つことは、不法行為である不貞行為に該当するため、肉体関係を持った人(不貞相手)のパートナーに与えた精神的苦痛に対し、損害賠償義務を負わなければなりません。

(2)内縁関係における不貞慰謝料の相場

内縁関係における不貞行為の慰謝料の相場は、おおよそ50万円から300万円ほどとされています。金額に大きな幅があるのは、次のような個別具体的な事情を踏まえて金額が決められるためです。

  • 不貞行為に及んだ期間や回数
  • 不貞行為により内縁関係が破綻・解消したか
  • 内縁関係にある期間の長さ
  • 内縁のパートナーとの間に子どもがいるか

なお、同じような条件下でも、法律婚での不貞慰謝料(不貞行為の慰謝料)に比べると、内縁関係では金額が若干、低くなる傾向にあります。

(3)慰謝料の支払いを拒否できるケース

不貞相手と内縁関係にあるパートナーから慰謝料を請求されても、支払いに応じる必要がないケースがあります。どのような場合に支払いを拒否できるのか、具体的なケースを見ていきましょう。

3-1.相手方に内縁関係が成立していない

慰謝料請求が認められる大前提として、不貞相手とそのパートナー(慰謝料の請求者)との間に、法的に保護される内縁関係が成立していることが必要です。裁判などで内縁関係が認められなければ、慰謝料の支払い義務は発生しません。

法的に内縁関係と認められるためには、カップルの双方に「婚姻の意思」があり、かつ「夫婦同然の共同生活」を送っている実態が必要です。具体的には個別の事情によって異なるものの、一例として次のような状況が伴っていると内縁関係が成立すると判断されるでしょう。

  • 長期間にわたり同居している(一般的に3年以上が目安)
  • 生計を一つにしている(生活費を共有している)
  • 互いの親族の冠婚葬祭に夫婦として出席している
  • 周囲(友人や職場)に夫婦として紹介している
  • 公的な資料や書類などから内縁関係を証明できる

このうち、公的な資料や書類などから内縁関係が証明されるケースとして、以下のような場合が挙げられます。

  • 住民票の続柄が「妻(未届)」や「夫(未届)」となっている
  • 賃貸借契約書の同居人が「内縁の妻(夫)」などと記載されている
  • 健康保険証で自身か交際相手が被扶養者となっている

一方で、次のような状況であれば、単なる恋人の関係であるとして、内縁関係が否定されやすくなります。

  • 同居期間が数か月と非常に短い
  • 生活費を各自で管理しており、生計が別々である
  • お互いに別の異性と交際している、または婚活をしている
  • 将来の結婚を約束しておらず、単なる同棲に過ぎないとの認識だった
  • 内縁関係を証明できる資料や書類がない

もし、内縁関係の成立が否定され、単なる同棲や恋人関係に過ぎないと判断された場合は、慰謝料の支払いを拒否することが可能です。

3-2.肉体関係を持つ前から内縁関係が破綻していた

不貞行為の慰謝料は、「婚姻共同生活の平穏」という法的に保護されるべき利益を侵害したことに対して支払うものです。そのため、肉体関係を持つよりも前に、相手方の内縁関係が破綻していた状態であれば、慰謝料を支払う必要はありません。

たとえば、肉体関係を持つ前から、不貞相手がパートナーと長期間の別居状態にあったり、内縁関係の解消に向けた話が具体的に進んでいたりするようなケースが考えられます。

3-3.肉体関係(不貞行為)の明確な証拠がない

不貞行為、つまり肉体関係があったことを示す客観的な証拠がなければ、慰謝料の請求は認められません。2人でラブホテルに出入りする写真や、性交渉があったことを推測させるメッセージのやり取りなど、有力な証拠を請求者が提示できない場合、支払いを拒否できる可能性があるのです。

一方、2人で食事している写真や、ハグやキスをしている写真、親密そうなLINEのやり取りなどだけでは、不貞行為の証拠として不十分であり、慰謝料が認められないと考えられるでしょう。

なお、2人で宿泊を伴う旅行をしている最中の写真などを証拠として提出された場合、実際は肉体関係に及んでいなくても、肉体関係があったものと推認され、慰謝料が認められる可能性がゼロではないため注意が必要です。

3-4.内縁のパートナーがいることを知らなかった

不貞行為の慰謝料は、不貞相手に内縁のパートナーがいることを知っていた(不貞行為が故意だった)場合に認められます。

たとえば、不貞相手からパートナーはいないと嘘をつかれており、マッチングアプリの登録内容やSNSの投稿内容などからも嘘を見抜けない状況であれば、不貞行為の慰謝料を請求されても拒否できます。

逆に、あなたの貞操権の侵害を理由に、不貞相手に対して慰謝料を請求でき得ると考えられます。

ただし、注意すればパートナーの存在に気付くことができた状況であれば、不貞行為に不注意(過失)があったとして、慰謝料の支払い義務が生じる可能性があるため注意しなければなりません。

たとえば、絶対に家へ呼んでくれない、左手の薬指に指輪をしているのを見かけたといった事情があれば、パートナーの存在を疑うことができたとして、慰謝料が認められる可能性があります。

3-5.慰謝料請求の時効が成立している

不法行為による損害賠償請求権(慰謝料請求権)には、消滅時効があります。そのため、慰謝料の支払いを拒否できる事情がなくても、請求を受けないまま次の期間のどちらかが経過すると、支払い義務がなくなります。

  • 請求者が不貞行為の事実と不貞相手が誰かを知った時から3年
  • 不貞行為があった時から20年

3-6.請求者がすでに十分な慰謝料を受け取っている

不貞行為は2人以上で不法行為をする「共同不法行為」に該当します。そのため、自分自身と不貞相手が、共同で連帯して損害賠償責任を負います。

そして、慰謝料は原則として「二重取り」ができないため、もし、どちらか一方が慰謝料の全額を支払えば、もう一方は支払う必要がなくなります。たとえば、不貞相手がすでに内縁のパートナーに対して慰謝料を支払ったのであれば、慰謝料を請求されても重ねて支払う必要はありません。

ただし、不貞相手が「求償権」という権利を行使し、責任の程度に応じて本来、支払うべき分を請求してくる可能性はあります。

(4)慰謝料の金額を減額できるケース

慰謝料の支払い義務を免れない場合でも、請求された金額をそのまま支払う必要はありません。慰謝料の金額はさまざまな事情を考慮しながら決めていきますが、感情的になった相手方から、相場を大幅に超える金額を請求されるケースもあるでしょう。

不当に高額な慰謝料を請求された場合、妥当な金額まで減額するよう求めることが重要です。ここでは、慰謝料の減額が認められやすい代表的なケースについて解説します。

4-1.不貞行為の期間が短く、回数が少ない

たとえば、不貞行為に及んだ回数が一度きりなど少ない場合や、不貞関係の期間が数日間や数週間程度と非常に短期間だった場合です。長期間にわたって何度も関係を持ったケースと比べて、請求者が受けた精神的苦痛の程度は比較的小さいと判断されます。

もし、不貞行為の回数が少ない、期間が短期間だったという事情があるにもかかわらず、高額な請求を受けていれば減額を求めたほうがよいでしょう。

4-2.不貞行為が原因で内縁関係が破綻していない

不貞行為が発覚した後も、相手方が内縁関係を解消することなく共同生活を継続している場合があります。

このようなケースでは、不貞行為が原因で内縁関係が破綻した場合に比べ、不貞行為によって受けた損害の程度は比較的軽いと評価され、慰謝料の金額も低くなります。

4-3.真摯に謝罪し、反省の態度を示している

慰謝料請求は、金銭的な賠償だけでなく、請求者の処罰感情を満たすという側面も持ち合わせています。そのため、請求者に対して誠心誠意、謝罪することが重要です。

真摯な姿勢が伝われば、交渉の際に請求者の感情が和らぎ、減額に応じてもらえる可能性があります。また、調停や裁判の場でも、反省の態度が考慮される場合があります。

4-4.すでに社会的制裁を受けている

不貞行為が原因で会社での立場が悪くなって退職を余儀なくされたり、職場で降格処分を受けたりすることがあるでしょう。

このように、不貞行為によって何らかの社会的制裁を受けている場合、「すでに不利益を受けているもの」として、慰謝料が減額される要素となることがあります。

4-5.請求者側にも関係悪化の原因がある

不貞行為が始まる前から、不貞相手のパートナー側に内縁関係を悪化させる原因があった場合も、減額が認められるかもしれません。たとえば、不貞相手に対するDV(ドメスティックハラスメント)やモラルハラスメント(モラハラ)などです。

4-6.不貞相手のほうが責任の程度が重い

すでにご説明した通り、不貞行為は行為に及んだ当事者たちが共同で責任を負う共同不法行為です。責任の度合いは基本的に等分されますが、個別の事情を考慮して調整されます。

たとえば、次のような事情がある場合、自分よりも不貞相手のほうが責任の程度が重いとして、減額を認められる可能性があるかもしれません。

  • 自分ではなく不貞相手が関係を主導していた
  • 自分は関係を終わらせようと考えていたのに、不貞相手が継続を望んでいた
  • 不貞相手から執拗に誘われ、立場上、関係を断れなかった

(5)慰謝料を請求されたときの対応

不貞行為の慰謝料を請求された場合、その後の対応が極めて重要です。感情的に反論すれば話し合いがこじれるかもしれませんし、安易に請求に応じると相場よりも高額な金額を支払う状況に陥りかねません。

交渉によって取り決めた内容を後から覆すことは困難なので、まずは冷静に対応しましょう。慰謝料を請求されてから解決するまでの基本的な流れや対応方法を解説します。

5-1.請求内容を冷静に確認する

不貞行為の慰謝料を請求する書面を内容証明郵便などで受け取った場合、まずは落ち着いて内容をしっかりと確認しましょう。誰が、どのような理由で、いくら請求しているのかを正確に把握することが、問題解決への第一歩です。

焦って相手に連絡を取ったり、不用意な発言をしたりするのは絶対に避けるべきです。

5-2.支払い義務の有無と減額の可能性を検討する

次に、自分の状況を客観的に分析します。これまでに解説した「支払いを拒否できるケース」や「減額できるケース」に当てはまる事情がないか、一つひとつ丁寧に検討してみましょう。

もし、内縁関係が破綻していると打ち明けたり、パートナーはいないと説明したりする不貞相手のメッセージや、不貞相手が積極的に関係を主導していたことがわかるやり取りなど、自分に有利な証拠があれば必ず保管しておきましょう。

5-3.相手方と交渉し、示談書に残す

まずは、相手方の請求に対して支払いを拒否したり、減額を求めたりするために話し合い(交渉)を進めます。

交渉によって慰謝料の金額や支払方法などの条件がまとまった場合、その合意内容を「示談書」の形で書面に残しましょう。書面を残すことは、合意した後で言った言わないのトラブルを回避するために非常に重要です。

なお、不貞行為に関する示談書には、金額や支払期限、支払い方法などの項目だけでなく、次のような内容を盛り込むことが一般的です。

  • 清算条項

    和解書の中で取り決めた内容以外に何も債権債務関係がないことの確認

  • 口外禁止条項

    不貞行為の事実や合意した内容などを第三者に口外することの禁止

  • 接触禁止条項

    不倫相手が配偶者(パートナー)に今後関わることの禁止

  • 違約条項

    合意内容に違反した場合のペナルティ(違約金の金額など)

  • その他

    求償権の放棄に関する取り決めなど

5-4.交渉が決裂した場合は調停や裁判で解決する

交渉でも合意に至らなければ、調停や訴訟など、裁判所を通じた法的手続きに移行する場合があります。

調停は、裁判官と調停委員が中立な立場で当事者の間に入り、双方の主張を聞きながら話し合いによる解決を目指す手続きです。裁判とは異なり非公開の場で行われる、裁判よりも比較的、短期間での解決を目指せるというメリットがあります。

訴訟では、慰謝料を支払う義務の有無や、支払う場合の金額などを、裁判官が判決の形で決定します。

調停を申し立てても合意ができなかったり、相手方が参加しなかったりした場合は調停が不成立となり、結局は訴訟へと移行することになります。そのため、調停を経ないで、最初から訴訟で争うことになる可能性もあるでしょう。

(6)高額な慰謝料請求を受けたら弁護士へご相談を

内縁関係における不貞慰謝料の問題は、法律の専門知識がなければ適切な判断が難しい分野です。そもそも内縁関係が成立しているかなど、夫婦間での不貞問題よりも検討するべき点が多いからです。

  • 慰謝料を支払いたくない
  • 請求額が妥当かわからない
  • 減額に応じてもらえるか不安
  • 相手方と直接話したくない

このようなお悩みを抱えたまま自身で交渉を進めると、不利な条件で合意してしまうかもしれません。そのため高額な請求を受けた際は、慰謝料問題の解決実績が豊富な弁護士に相談しましょう。

弁護士に相談することで、慰謝料を支払う必要性や、妥当な金額などを法的な視点から判断してくれます。対応を任せた際は、支払いを拒否したり減額を求めたりするための交渉を弁護士が代理します。

もちろん、調停や裁判に発展した場合でも、手続きや対応を任せることが可能です。さらに、相手方や裁判所などとのやり取りも任せられるので、精神的負担から解放される点も大きなメリットでしょう。

弁護士法人プロテクトスタンスでは、浮気・不倫の慰謝料請求に関するご相談を初回60分まで無料で承っております。高額な慰謝料の請求でお悩みの方は、ぜひご相談ください。

この記事を監修した弁護士

弁護士
金岡 紗矢香

弁護士法人プロテクトスタンス所属 (第一東京弁護士会 No. 56462)

早稲田大学法学部を卒業後、国内大手飲料メーカー勤務などを経て中央大学法科大学院法務研究科を修了(70期)。弊事務所に入所後は子育てをしながら弁護士として活動し、浮気・不倫の慰謝料請求や離婚・男女問題などの分野で活躍中。

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